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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

藤子・F・不二雄『モジャ公』

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モジャ公』は本当に面白い。ファンの間では「藤子・F・不二雄の最高傑作」と謳われることも少なくない作品だ。勿論、偉大なる作家の最高傑作論争に決着というものはなく、『エスパー魔美』だ、『T・Pぼん』だ、いや反則技で『SF短編集』だ、といった異論はあまりに有効であるし、かく言う私自身もその解は決めるかねる。しかし、文庫版で2冊、藤子・F・不二雄大全集ならば1冊でコンプリートで出来てしまうコンパクトなサイジングを考慮すると、めくるめくFワールドの導入としても最も優れたテキストである事は断言できる。何か面白い漫画はないものか、と徘徊されている方がいらっしゃり、もし『モジャ公』が未読であるというのであれば、そんな幸福なことはない。Fワールドへようこそ、である。



90年代に放映されていたアニメ版の印象が残っている方は一端捨て去ったほうがいいだろう。あれはアニメオリジナル脚本なのだ。*1オバケのQ太郎』や『ウメ星デンカ』といった作品のようなドタバタSF日常ギャグではない。主人公の空夫は『ドラえもん』におけるのび太と同様にとってもブルージー。
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勉強もできないし、喧嘩も強くないし、ママはやっぱりいつだってちょっと煩わしい。毎日がどうにもおもしろくない。そんな彼の孤独なSOSをキャッチするのは、未来からの子守ロボットではなく、同じような孤独を抱えたボンクラ達。謎の宇宙生命体モジャラとポンコツロボットのドンモ。ついに出会った彼らは、嫌気の差した現状からの逃避を決行する。史上空前の家出として、ロケットで宇宙に飛び出すのだ。真に”友”と、”兄弟”と、呼べる存在が遠いはるか彼方の宇宙に存在した、というモチーフがまずもってグッときてしまうわけだけども、所詮ボンクラの集まり。いっつも文句を垂れているし、金、女、食い物には目がない。およそ少年漫画の主人公らしからぬ3人(?)は、虚勢を張って命を粗末にするし、見栄をはっては失敗を繰り返す。しかし、そんなどうしようもない様が、憎めないどころかたまらなく愛おしく、これぞ”業の肯定”だな、と独りごちるのだ。



3人の冒険で繰り広げられる奇想天外な出来事の数々に潜むF先生のセンスオブワンダーの豊かさには舌を巻くばかりだ。よく言われている事だか、1969年に連載を開始した本作には宇宙船レース、恐竜テーマパーク、仮想現実と精神のコネクトなど、『スター・ウォーズ』『ジュラシック・パーク』『マトリックス』といったSF大作のモチーフがあちこちに混在している。ルーカスやスピルバーグが直接本作に影響を受けたかは定かではないが、SF界の”予言の書”としての『モジャ公』の存在は大山脈のようである。更に流血たっぷりのスプラッターに、寿命のなくなった星での自殺フェスティバル、終末思想の信仰宗教など、シニカルでダークなスプラスティックコメディっぷりも魅力的。筒井康隆の諸作を想起して頂けるとわかりやすいかもしれない。F先生のポップな絵柄で繰り広げられる筒井康隆、その強烈なズレが本作をまた一層魅力的なものに仕上げていると言えるだろう。とにもかくにも胸を張ってオススメできる一作を、今さらながら激烈レコメンドなのです。

モジャ公 (藤子・F・不二雄大全集)

モジャ公 (藤子・F・不二雄大全集)

モジャ公 (1) (小学館コロコロ文庫)

モジャ公 (1) (小学館コロコロ文庫)

モジャ公 (2) (小学館コロコロ文庫)

モジャ公 (2) (小学館コロコロ文庫)

*1:実は『キテレツ大百科』もそうなのだが、あちらは驚くべきことことに原作を超えるクオリティを確保していた