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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

小森羊仔『木陰くんは魔女。』

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「お姫様は王子様と結ばれました、めでたしめでたし」といったようなハッピーエンドで締められるのが、子ども時代から慣れ親しんだ”おとぎ話”の定石。しかし、成長して少しでも知恵をつけ出そうものなら、「でも2人の恋は醒めてしまうかもしれないでしょ?」なんて指摘を得意気に始め出すものです。確かにその指摘はさもありなん、どんなに素敵な恋に落ちようとも、それが風化してしまうならば、ハッピーエンドとは呼べない。つまり最高のハッピーエンドというのは、”永遠の愛”ってやつを完璧に証明してみせてくれなくてはならないのだ。



小森羊仔の最新作『木陰くんは魔女。』(全3巻)はそんなお題目に見事に答えてみせている。

超ワガママな女子高生・夢子は自分の住むボロい団地が大キライ。ある日、回覧板を持って屋上の管理人室に向かった夢子は、鬱蒼とした森の中で謎の少年・木陰くんに出会う。自分が“魔女”だと主張する木陰くん。不思議でいっぱいの毎日と運命的な恋のはじまりはじまり…。

団地の屋上に森があって、そこで暮らす管理人は男の魔女。でも、実はまだ見習いで、一人前の魔女になるには、悪魔(男)と契約をして、オルギアという儀式(つまるところセックス)を行わないとならないのだ。そして、オルギアを経験すると、魔女はその後一切の”恋愛感情”を持てなくなってしまうという。あぁ、なんて完璧な物語のはじまり!『月刊YOU』連載のゴリゴリの少女漫画ではあるが、今作を本棚に納めるのであれば、『魔法陣グルグル』(衛藤ヒロユキ)と『ディスコミュニケーション』(植芝理一)の間に決まり。

魔法陣グルグル (1) (ガンガンコミックス)

魔法陣グルグル (1) (ガンガンコミックス)

ディスコミュニケーション(1) (アフタヌーンKC)

ディスコミュニケーション(1) (アフタヌーンKC)

そういった類の漫画なのだ。この例えにピンとこないという人の為、本編のパンチラインをいくつかご紹介したい。

「知らない」のか
胸の奥深くにしまい込んで「忘れてしまっている事」を忘れているのか
考えれば考えるほど分からない
でも
記憶はどこかに隠れているだけで
新しい空気を吸い込んでも
細胞が入れ代わっても
絶対 消えてなんかいなくて
今 この体をうごかすのは
確かに存在する
ユメの記憶だ

恋の錯覚に惑わされてきたとしても
姿を見つけた時のトキメキや
デートの時のドキドキは
確かにユメのものだった
誰にも見えないし
触れないけど
ユメは忘れないんだ

記憶や感情は
きっとどこかで永遠になっているよ
ユメがそうだったもん

もし仮にこのブログを長年愛読してくださっている方がいるのであれば、一緒になって「うおー坂元裕二だ!」「三浦直之(ロロ)だ!」と盛り上がって頂きたい。つまりは、一度発生した”想い”は決して消えないということ。だから、断言できてしまう。”永遠の愛”なんてものはどうしたって、そこいら中に、完璧にありまくるのだ。



こういったテーマがぶっとく全体を貫かれ、思春期ゆえの潔癖な”性(生)”、そして”死”といった要素が綿密にタペストリーを編み込まれながら大団円のラストへと向かっていく。メタもベタも何でもござれのハイテンションと絵柄や会話センスのキュートさ、ポップさで軽やかな印象はキープしつつも、ドラマとしての圧倒的な面白さで読者を惹きつける。緻密な伏線や空間設計の鋭さも見逃せない。とりわけ今作における垂直空間の捉え方とその活劇は、宮崎駿すら想起する手さばきだ。
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劇中に登場する様々な落下運動は世界の奥行きを拡張し、閉鎖的な思春期の視線を変容させる。世界のやわらかさ、豊かさを獲得する為の落下。あまりにジブリ。劇中にて「夢だけど 夢じゃない」という『となりのトトロ』を象徴するあの台詞がトレースされた時、確かなる意思の継承を小森羊仔に見る。



長々と書いてしまいましがた、とにもかくにもこの『木陰くんは魔女。』という作品、あまりに肌が合うといいますか、物語のモチーフも絵柄もキャラクター造形もコマ割りも背景の書き込みも台詞回しもetc・・・その全てのセンスがたまらなく好きで、こんな作家を何年も見逃し続けていたなんて、後悔の極みである。ちなみに、私は1番好きなキャラはボーダーシャツがお似合いの超絶かっこいい木陰くん、もしくは、夢子の親友である七緒ちゃん。

七緒「ユメちゃん、恋人が欲しいの?」
夢子「うん!だってもう高校生だよ!?」
七緒「なんか関係あるの?」
夢子「やだ七緒・・・少女漫画ちゃんと読んでる?高校生といったら普通恋人が出来るんだよ。いちばんスキな漫画は!?」
七緒「モジャ公
夢子「名作!!!」

あぁ、最高のやりとり。さて、またしても、漫画ソムリエであるスカート澤部渡さんのツイートで、この作品の存在を知ることができました。感謝。なんたって表紙のデザインが良すぎるので、即買い。このエントリーを読んで下さった貴方もきっとそうするであろうことを信じています。

木陰くんは魔女。 1 (マーガレットコミックス)

木陰くんは魔女。 1 (マーガレットコミックス)

木陰くんは魔女。 2 (マーガレットコミックス)

木陰くんは魔女。 2 (マーガレットコミックス)

木陰くんは魔女。 3 (マーガレットコミックス)

木陰くんは魔女。 3 (マーガレットコミックス)