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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ロン・ハワード『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK-The Touring Years』

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ここ数年『ラッシュ/プライドと友情』(2013)、『白鯨との闘い』(2015)とハイペースで良作を献上しているロン・ハワードビートルズのドキュメンタリー映画を監督。この報に胸躍らぬ者がいようか、というような膨れ上がったポップカルチャーラヴァーの期待を裏切らぬ素晴らしさがありました。1つの鏡で寄りそうよう髪型を整え合うビートルズの4人。これが今作のメインビジュアルと言っていいだろう。ロン・ハワードは、あの4人が1つの画面に同時に収まっている、その多幸感を捉える事に注力している。ホテルの一室に、狭い車内に、飛行機に、スタジオに、ステージにetc・・・とびきりにシニカルで、勇敢で無敵な、若きファブフォーが身を寄せ合うように収まっている。このフィルムに刻まれている4人は、共に助け合い、わかちあい、慰め合い・・・劇中の言葉を拝借すれば、4つの首をもった1つの生命体のようである。前例のない成功と中傷、その喧騒に巻き込まれながらも、互いの存在がある故に、なんとかサヴァイブしていく。4人が1つの共同体であった幸福な時間の記録、それが今作だ(バンドヒストリーをなぞりながらも、4人に不和が生じていく様子は極力省かれている)。


しかし、その喧騒を実際に映像で目の当たりにすると、まったく度肝を抜かれてしまう。オーストラリアにビートルズが降り立った時、空港に待ち受けていたファンの数はどれくらいだと思う?なんと25万人である。空港から15キロの人の列が作られたというのだ。ビートルズに対して底が抜けたような歓声を上げて、バタバタと気絶していく女の子達、その尋常ではないエネルギーと恍惚の表情、それも今作の大きな見所と言っていいだろう。


そして、この映画の最も感動的なシーンの1つを紹介したい。1965年、まだ黒人差別が色濃く影を落としていたフロリダ州ジャクソンビルでのコンサートにおけるエピソードだ。トイレやバスなどが、人種ごとに区分けされていたジャクソンビルでは、コンサート会場においても客席は人種隔離されていた。ビートルズの4人はその状況を知り、演奏する事を拒否する。「人種差別なんてくだらない」とゆがんだ社会情勢に対して徹底的に「No!」を突き付けるのだ。アメリカという大国に、20歳やそこらの外国の若者が、だ。そして、彼らは見事に壁をぶち壊してみせる。全ての客席は統合され、この地において白人と黒人ははじめて混ざり合い、誰もが等しくビートルズに歓声を上げる。その圧倒的な正しくポジティブな4人の姿勢に、私の涙腺は崩壊してしまう。

She loves you, yeah, yeah, yeah

と、ビートルズは歌うわけだけども、その”She”の中に、本来孤独であるはずの我々が束の間だとしても、含まれ、1つに溶けあう事の尊さ。それがビートルズのポップソングが成し遂げた革命なのだ。


更に本編終了後には、最新技術でリペアされたとい5万6千人を動員したという1965年のシェイスタジアムでのライブ映像が30分の特別編集版で流れます。これがまた素晴らしい!あまりの歓声でモニターの音が一切聞きとれず、リンゴは後ろからメンバーの腰やお尻の動きで、曲進行を判断していたという壮絶な逸話を残しながらも、実にタイトでグルヴィーなロックンロールショ―を展開している。それにジョンとポールの喉ときたら!何故今なおビートルズが金字塔であり続けるのか?という命題に、その音楽が後にも先にもないほどに至高だったからだ、と明確な回答を観る者に与えてくれる事だろう。