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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

スケラッコ『盆の国』

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インターネットや自費出版本で既に高い評価を手にしている実力派新人作家スケラッコの待望の商業デビュー作。「高野文子だ!市川春子だ!」というようないささか的外れな書店のポップや『このマンガがすごい!』や『マンガ大賞』へのノミネートが目に浮かぶよう。とにもかくにも、その実力がいかんなく発揮されたウェルメイドなジュブナイル、恐るべきデビュー作と言えるでしょう。



夏のうだるような暑さでアイスクリームが溶ける。湿気で夜が溶け、自堕落が夏休みを溶かす。しかし、猛暑はそれだけでは飽き足らず、生と死の境界さえも溶かしてしまう。今作の主人公はお盆の期間だけご先祖様の霊が見えるという不思議な力を持った中学3年生の女の子だ。もう会えない人達、将来への不安、親友との些細な喧嘩。そんな彼女の思春期の葛藤がふともたらした「ずっとお盆だったらいいのに」という祈りが、神さまに通じてしまったのか何なのか、永遠に繰り返される8月15日(終戦記念日)、エンドレスサマー。花火、高校野球、ペットボトルに凍らせたお茶、宿題、夕立、お祭りetc・・・これでもかと繰り出される夏の記憶。そして、食卓に並び続ける冷たい麺類と、現世に留まり続ける死者達。突然出会った謎の青年とバディを組んで、元の世界へ戻そうと町を奔走し、何やら今回の騒動の原因であるらしい山の頂上を目指す。




正直、これまで何十回も目にしたようなモチーフのパッチワークではあるのだが、『京都・大阪BONDANCE』という趣味前回の作品を自費出版で献上しているスケラッコの”盆踊り”への偏愛が、この作品をオリジナルなものにしている。
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この描き込み、陰影!死者への弔いの意味が込められている盆踊りを、死者自身が踊る。そのダンスは、彼らの実存をくっきりと刻む。もうここには”居ない”彼らは、かつて確かにここに”居た”のだ、という当たり前の事実。連綿と続く生の営み、その法則の一端に主人公が触れる。そして、物語は「私のおばあちゃんのおばあちゃんのかつての恋人は、私の恋人でもあるのではないだろうか」といったようなアクロバティックな論理を優しく肯定するのである。



そのまま映画化が可能(東映アニメか大林宣彦での実写化!)なほどの、縦と横の構図が交錯した物語運びの確かさ。そして、スケラッコ先生の何よりの魅力はそのやわらかいタッチと細部の描き込み、ぜひとも目を凝らして楽しんで頂きたい作品だ。



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