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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

海援隊『2016トーク&ライブ』~武田鉄矢への異常な愛情~

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とうとう生で武田鉄矢を目撃する事ができた。感激一入であります。海援隊の音源などは数えるほどしか持っていないのだけど、「人生で一度は武田鉄矢の実像を眼に焼きつける必要がある」と強く感じ、チケットの購入を決断した次第である。「君にとって武田鉄矢ばかりが”あり”な理由を教えてくれ!?」と南こうせつさだまさしらに囲まれ、問い詰められたとしたら、私は厳かな声で『3年B組金八先生』『映画ドラえもん』主題歌の重要性を説く事になるだろう。全てのポップカルチャー愛好家にとって、その2作品でしっかり結ばれた武田鉄矢という存在は、それだけで愛さずにはいられないのである。たとえ、実際の武田鉄矢がいかに底意地の悪い姑息な古狸(いや、”緑のたぬき”か)であろうとも、だ!いや、知りませんけどね。実際、物凄い誠実なヒューマニストかもしれない。



そもそも、私が初めて音楽を聞いて涙したのは武田鉄矢の「雲がゆくのは…」という楽曲だ。
dai.ly
ドラえもん のび太と雲の王国』(1992)の主題歌。映画のどこかセンチメンタルな質感と共に

涙ふくハンカチの色をした 雲が北へと流れてゆく

という歌い出しの哀愁を帯びたメロディーが6歳児であった私の涙腺を捉えた。『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』(1985)での「少年期」、『ドラえもん のび太の日本誕生』(1989)での「時の旅人」なども忘れ難し名曲である。
youtu.be
Wikipediaにも記載されている有名なエピソードだが、『映画ドラえもん』の主題歌からそろそろ武田鉄矢を降板させないか、という提案をスタッフから受けた藤子F不二雄が普段の温厚さからは考えられないような怒りを見せて却下した、というのがある。このほかにF先生が激怒したエピソードでもう1つ有名なのが、手塚治虫の悪口を言った編集者を締め出したというものであるからして、F先生の中で武田鉄矢は神様・手塚治虫と並ぶに値する存在なのである。「何故あの姑息な古狸の事をそこまで・・・」と思わないでもないのだが、すると「タヌキじゃないっ!!」というドラえもんの怒声が響いてくるのです。



思い返してみれば、私が人生で1番最初に「歌いたい」という感情を宿したのも武田鉄矢のナンバーであった。音楽の時間に習った海援隊の「贈る言葉」である。「なんていい歌なんだろう!」と素直に衝撃を受けた。

暮れなずむ町の 光と影の中
去りゆくあなたへ 贈る言葉

という歌い出しは、今考えてもどうにも素晴らしいリリカルな導入である。早く口に出してこの言葉を発したい、と強く思ったものだ。

悲しみこらえて 微笑むよりも
涙かれるまで 泣くほうがいい
人は悲しみが 多いほど
人には優しく できるのだから

というラインにはもうガツーンとやられた。「男の子なんだから泣くんじゃありません」というマチズモが幅をきかせているのが幼少期というやつで、それを真っ向から否定して、違った角度から包み込んでくれたのだ。数年後、第4シリーズの主題歌「スタートライン」も同じように衝撃を受ける。あの曲がミリオンヒットしなかったのは今なお疑問である。



役者としての武田鉄矢にもここ数年すっかり魅了されている。私の『3年B組金八先生』への愛情についてはこれらのエントリーを参照願いたい。本当は全シリーズ書きたい。
hiko1985.hatenablog.com
hiko1985.hatenablog.com
3年B組金八先生』の素晴らしさはさておき、『幸福の黄色いハンカチ』(1977)、『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』(1978)というデビュー直後の2作だけでも評価するに足りる役者だろう。

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男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく [DVD]

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ズングリ体型とロン毛のアンマッチさもさる事ながら、彼の佇まいはそれだけで、コンプレックスと熱情がハネっ返る”若者が全て”が軽妙に体現されてしまっているのです。武田鉄矢が原作・脚本・主演をこなす『刑事物語』や『プロゴルファー織部金次郎』は昭和の風俗が記録がされたプログラムピクチャーの傑作であるし、『101回目のプロポーズ』『教習所物語』『白夜行』などで魅せる様々な鉄矢もやはり愛さずにはいられない。



そろそろ、今回のコンサートの話に戻ろう。会場は杉並公会堂。名前からしてボロボロの区民ホールのようなものを想像していたのだけれど、小綺麗な抜けのいいホールだ。ここ数年の海援隊は精力的に全国のホール会場を回りをしているらしい。演奏はバンド形式ではなく3人編成(中牟田俊男が癌治療の為、この日はサポートメンバー)のアコースティックセッションだ。『3年B組金八先生』の第2シリーズ主題歌である「人として」からスタートしたセットリストは「贈る言葉」「母に捧げるバラード」「思えば遠くへ来たものだ」「故郷未だ忘れ難く」などの代表曲と共に、目下の最新アルバム『去華就実〜花散りて次に葉茂り実を結ぶ〜』(2014)

去華就実~花散りて次に葉茂り実をむすぶ~

去華就実~花散りて次に葉茂り実をむすぶ~

からの楽曲を中心に構成されていた。老境に差し掛かったブルースとノスタルジーを歌う新曲群、決して悪くない。新たな代表曲とも言えそうな「そうだ病院へ行こう」などの鉄矢本来の毒っ気が滲み出た筆致からも、現在の彼らが楽しんで音楽を制作している様子が伺える(では、音源を購入するのか、と言われると閉口してしまうのだが)。しかし、千葉和臣という人の才能は武田鉄矢という個性の元に不当に過小評価されていやしないか。その作曲能力、12弦ギターの美しい響き、武田鉄矢とのハーモニーワークの素晴らしさは、海援隊におけるジョージ・ハリスンとでも呼ぼうか(しかし、海援隊にはジョンもポールもいない)。私がとりわけ愛する彼の作品は「駅におりたら」である。
youtu.be
さて、ブルージーンズに白いシャツ、その上にエンジ色のベストを身に纏った武田鉄矢はテレビで見かける時よりも若々しい印象。「ついに会えましたね、先生」と目頭が熱くなった。御齢67歳、高音はかなり厳しいが、彼の持ち味はあの凄味の効いた低音であるからして、さして問題にならないだろう。「トーク&ライブ」と銘打っているだけあり、半分以上は彼の漫談で占められている。擦り倒しながら改変が加わってきた事が伺えるエピソードトークの数々は非常に完成度が高く、(おそらく)何回も聞いているに違いない観客であっても、たまらず爆笑の渦に落とし込む。悲しかったり悔しかったりした事なんかの方が振り返ると笑い話として強く心に残るものだ、というまさに「贈る言葉」の歌詞そのもののようなフィーリング。「人生そんなもんですな」を連呼する老人の説法に、迂闊にも感銘を受けてしまう事も。まさにお金を払って聞く価値のある”芸”である。また、数々の映像作品を通じて40年分の彼の姿を見つめ続けた身としては、全てのエピソードがその年代の鉄矢の姿が頭の中で再生されるわけである。その仕草や言い回しの一つ一つに、作品の記憶を見出してしまう。その感覚を言葉にするなら、「もう、たまらん」の一言なのである。武田鉄矢に興味がない方でも、「暇で暇でたまらん」という際にはぜひ訪れてみて欲しい。決して損をした気分にはならないと約束致します。