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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ジョン・ワッツ『COP CAR コップ・カー』

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傑作。2017年公開の『スパイダーマン』の新シリーズ監督の就任が決定しているジョン・ワッツがケヴィン・ベーコンのサポートの元に作り上げた商業映画2作目。88分というランタイムが既に物語っていますが、無駄な描写やバックボーンの説明が多分に削ぎ落とされており、故に”映画”としか呼びようのないものに仕上がっている。映画を”読む”ことを何よりの喜びにしている者には無関係な作品かもしれない。ここには社会やらアメリカやらの縮図は潜んではいない。訳もなく走り出さねばならぬ衝動と、不明瞭な暴力と死、それを”観る”のだ。


実にスタイリッシュかつプリミティブなサスペンススリラーmeetsジュブナイル。そして、とびきりにユーモラス。主演のケヴィン・ベーコンがどうしたって絶妙。汗びっしょりのランニング姿(でのランニング)には悪人のはずの彼を応援してしまわずにはいられないだろう。悪態をつかずにはいられない少年達の放つ放送禁止用語で映画がゆっくり始まるのもクールだし、無線の使い方も最高にスリリング。前述の汗もいいし、汚れた窓もいい。全体的に埃っぽい質感が抜群にかっこいいのだ。誰もが指摘せずにはいられないのが、『グーニーズ』(1985)や『スタンド・バイ・ミー』(1986)の記憶を振動させる、少年が死に触れる成長譚としての側面だろう。死の匂いはよりくっきりとリアルに佇んではいるが、少年たちの冒険と戯れは80年代のジョー・ダンテクリス・コロンバスのようであるし、更に言ってしまえば、ジョン・ワッツの今作での手つきはスティーヴン・スピルバーグの初期のフィルモグラフィーに合致する。少年たちは当然のように複雑な家庭環境を持ち、大人達は『激突』(1971)や『ジョーズ』(1975)でのそれらのように動機が不明瞭なままに殺意を向けてくる。ラスト、少年達は夜道を車で疾走するわけだが、ここでもしヘッドライトが灯火されようものなら、そのビームはスピルバーグの光になってしまうわけだが、ジョン・ワッツはそこをグッとこらえ、代わりにサイレンを灯す。僕たちはここにいます、と叫ぶかのように。勿論、道はスーッと前に続いている。新たな才能による、映画史の書き換えが、この小さな作品の中で密かに行われているのだ。