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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

宮藤官九郎『ゆとりですがなにか』1~2話

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現在、2話まで放送中。むちゃくちゃしんどい話だが面白い。宮藤官九郎のキャリア初の社会派ドラマに挑戦という事で

僕にしては珍しく、コメディーではないと最初から言い聞かせて書いている。コメディー要素はあったとしても今回はあくまで“社会ドラマ”です

うまくいかないっていうのが現代の若者のジレンマだと思ったので、ドラマ自体もうまくいかない方がしっくりくる。スッキリさせないであえてモヤモヤしたままの回が、このドラマに限っては、あっていいと思う。あと、あえてこれまでのような構成のギミックや伏線などを一切禁じ手にしています。今ノってるいい役者さんが芝居だけで勝負する作品と思ったら、こういう感じになりました

と本人がインタビューで語っているように、”らしさ”は薄め。これまでの作品を彩っていた彼特有の”照れ”のようなものも排除され、ストレートに何やら名言らしい台詞が放たれる。しかし、驚きなのはそういった得意技や癖を封じたクドカンが、実に山田太一的であったという事実だろう。学歴、恋愛など様々なコンプレックスにまみれながら、社会に搾取される若者たちが懸命に生きようとする姿を捉えている、という点においてもそうなのだが、そもそも主人公である正和(岡田将生)の父から続く酒造屋の次男坊、母と兄夫婦と共に実家で同居という設定が明瞭な『ふぞろいの林檎たち』(1983)のオマージュになっている。*1

ふぞろいの林檎たちII 1 [DVD]

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「ふぞろいの林檎」という言葉が表す、規格外の落ちこぼれというのは、今作における「ゆとり世代」という言葉は、一旦の所、同義語のようだ。



大袈裟に驚いてみせたものの、クドカンの今なお代表作として名高い『池袋ウエストゲートパーク』(2000)にしても、『木更津キャッツアイ』(2002)にしても、そのスタイリッシュな構成、過激な暴力やギャグに目を奪われがちだが、一貫して描いているのは、社会からはみ出してしまった若者たちが懸命に何者かであろうとする姿だったわけで、現在の境地への予兆は常に散見できたと言える。それでもやはり、自殺した息子について語る母親が焼きうどんを無心で作るシークエンスなどを観ていると、「クドカンはこんなものも書けるのか」と再び驚いてみるのだ。どうでもいいというか、だからなんだという話なのですが、母ちゃんが仏の前で焼きそばを食い、正和は職場では鳥を焼き、他人の家では焼きうどんを作り、その彼女は部屋でステーキを焼く。何故だかこのドラマは焼きまくっている。多分深い意味はない(はず)。



そしてもう1つ。このドラマのスパイスとして『ふぞろいの林檎たち』に加えて、『愛という名のもとに』(1992)が隠されているのではないか、という推測。

愛という名のもとに DVD-BOX

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ふぞろいの林檎たち』の系譜にあたる若者たちの葛藤を描いた群像劇、と同時にこちらも脚本の野島伸司が初めて社会派ドラマに挑んだ作品として知られる。最も記憶に残るキャラクターがチョロ(中野英雄)だろう。会社の上司から激しい苛めを受け、更には入れ込んだパブの女性から裏切られ、自殺してしまう。『ゆとりですがなにか』においても、自殺にまつわるキャラクターがいたはずだ。たった一度の上司からの説教で会社を辞め、目下ヴィランとして君臨している山岸ひろむ。彼を演じているのが太賀という役者なのだが、なんとチョロを演じた中野英雄の実の息子だというではないか。ここにはクドカンの「チョロがゆとり世代だったら自殺なんてしーねし、それこそ大変なことになっぞ」という“if”が見てとれるではありませんか。それは考え過ぎだとしても、『ふぞろいの林檎たち』『愛という名のもとに』といった作品をメルクマールとして今作が執筆されているのは間違いなさそうである。



いや、本当にクドカンの気合が感じられる作品。岡田将生、松坂桃季、柳楽優弥の名前の読み方わからない三人衆をはじめとした役者陣の実存感も素晴らしいし(安藤サクラが主演女優という英断)、衣装や美術での物語り方も秀逸。唯一不満があるとすれば、凡庸な楽曲が大々的にフューチャーされた(何故かバンドの演奏シーンあり)OPくらいか。『Woman』でのandrop起用といい、水田伸生の関わる作品のこういう所は本当に信用できない。やはりドラマの演出に限って言えば、フジテレビ陣容のセンスの方が数倍好みなのであるし、今作は『ロケット・ボーイ』(2001)以来のクドカン×フジテレビにふさわしい内容のドラマであるように思うので、そこだけ残念。

*1:ふぞろいの林檎たち』の主人公である良雄(中井貴一)の実家は酒屋