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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

池辺葵『プリンセスメゾン』1巻

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恋人にフラれたという友人を励ます為に開かれた食事会、のようなものがあって、恋の末路にまつわるエピソードの数々に笑ってしまったり切なくなったりしていたわけなのだけど、とりわけ印象に残ったのは、帰り際に誰かが小さな声でつぶやいた「ああやって悲しんだりできる事ですら羨ましいな」という一言だった。声の主は30年間彼氏なしの1人の女性だった。普段は表に出す事のない、彼女の積み重ねてきた孤独が、ふっと漏れ出してきたのだろう。彼女は容姿が劣っているわけでも、性格が破綻しているわけでもなく、社交性も積極性も身につけている。しかし、何かに宿命づけられたかのようにずっと1人なのである。衣替えのように季節ごとに恋人を変える人間も世の中にはいるわけで、そういった人達には想像もつかない話かもしれないが、孤独と付き合い続ける人々というのは実は思っている以上にたくさんいて、私の周りにも少なくない。彼や彼女は、齢30を前にして、「1人で生きていく準備」のようなものを始めていたりする。それは例えば、貯金であったり、マンション購入であったりするわけだけど、一体何を急にこんな話を始めたのかというと、池辺葵プリンセスメゾン』という傑作を紹介する為のイントロダクションなのだ。


2020年に東京オリンピックが開催される。異様に引き算しやすいその数字は、「○○歳の時に東京オリンピック」「後○年、で東京オリンピック」という計算を無意識に我々に行わせ、「その時、私はどうなっているのだろう」という漠然とした不安を我々に強いるようになった。そんな感覚を見事にリプレゼントしているのが東村アキコの『東京タラレバ娘』だろう。

しかし、前述の「1人で生きていく準備」を何とか始めずに済んでいるのは運が良かっただけだろう、と思っている私のような人間には、よく喋り、よく繫がり、なんだかんで華やかな『東京タラレバ娘』に、強い思い入れは持つことができなくて、そんな中で出会ったのが池辺葵の新作『プリンセスメゾン』だった。今作では、東京オリンピックによる都市の大開発から取り残されるであろう場所に潜む人々が掬い上げられ、緻密な感情表現の元で描かれている。作品の中で彼女達は肯定も否定もされず、楽観的でも悲観的でもない。ただ上手に孤独と向き合っている。持ち家(マンション)を手に入れる事が果たして本当に幸せをもたらすのかはわからない。しかし、彼女達は暖かい場所が必要で、そこで窓を広げて外の空気を吸い込むのだ。

窓は開けておくんだよ
いい声聞こえそうさ

と歌ったのはフィッシュマンズだったか。開け放たれた窓から聞こえてくる”いい声”は彼女達の孤独をより一層際立たせもするが、それぞれの孤独は、窓の外を漂い、誰も知りえぬ場所でゆるやかに連帯する。孤独である人は誰もが孤独である事を知っていて、だから少し強い。生きていかなきゃね。



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