青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

平山秀幸×奥寺佐渡子『学校の怪談2』

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夜に誰かと遊ぶと
昼間よりずっと仲良くできるよね

という実に甘美な台詞がサラっと登場する。そこに性愛の関係がなかろうと、”夜を共にする”という行為は絆を深めるものだ。子ども達は夜を超えると、少し大人の顔つきになる。なるほど、その意味で、"肝試し"という遊びは何たる魅力的な通過儀礼であった事か。そこで、この『学校の怪談』シリーズ。80年だから90年代にかけて量産されたジュブナイル邦画群においても、突出したクオリティを誇り、そのノスタルジックかつほのかにエロティックなタッチは今なお根強いファンを持つ。ナンバリングされているのは1から4まで存在し、そのどれもが良作であるが、個人的にベストに推したいのは1996年に制作された2作目。

大袈裟な事を言ってしまえば、スティーブン・スピルバーグ相米慎二の持つジュブナイル性が同居しているような、ハイブリッドで良質なローティーン映画である。監督は『愛を乞う人』『OUT』『しゃべれども しゃべれども』などの平山秀幸。撮影は山崎貴作品のヒットを支えた柴崎幸三。その他、美術、SFX、音楽、どの要素も実にウェルメイドであり、20年前の作品とは思えぬ古びない強度を誇っている。
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鏡ばりの紫色の部屋で巨大化した昆虫に囲まれ釘づけにさている前田亜紀、という強烈なフェティッシュ。衣装も実にいい塩梅で、イラスト入りの黄色のパーカー、安っぽい素材のスカジャン、ピンク色のGジャンにカラータイツなど、どれも涙腺を刺激する。そして、現在『学校の怪談2』を語るにおいて、最も注目すべきは、奥寺佐渡子が脚本を担当していたという事実だろう。相米慎二『お引っ越し』でデビューし、細田守の『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』といったアニメーション映画においても才気を発しているトップランカーの脚本家だ。当時20代での執筆という事だが、緻密な構成と唯一無二な個性を如何なく発揮し、『学校の怪談』というシリーズをオリジナルで特別な作品に仕上げている。


「4月4日の4時44分、何かが起こる」という、当時の小学生の間ではやった怪談話を元に、”時間”をテーマに作品を展開していくのが巧い。様々な”時間”のモチーフの中で、塾の合宿、一夜の冒険、ひいては”子ども時代”という限定性が煌めき出す。更に、時計(もくしくは社交ダンス)が持つ”循環”のイメージを死んだ祖父母との再会というドラマで、テクニカルに織り込む手腕、ラストで魅せる心霊写真を家族写真に書き換えてしまうという筆致、はお見事の一言。そして、何より『学校の怪談2』という作品がとりわけ多くの人の心を強く捉えたのは、やはり会話劇としての面白さ、活き活きとした台詞の数々にあるだろう。例に挙げてみよう。

杏子「あんたの友達…?ってことはやっぱりバカぁ?」
司「お前そんなにモンゴリアンチョップくらわされたいのか」
杏子「そういう事言う奴にかぎってバーチャ2やってもステージ3止まりなのよ」
ヨシオ「言ってる事よくわかんねーなぁ。お前ら東京のやつ?」
司「お前、この学校で俺を知らないのか?飼育委員長だぜ?」
ヨシオ「じゃあ、校歌歌ってみろよ」

そして、校歌で意気投合する2人。完璧だ。この密度の台詞群が矢継ぎ早に繰り出される。ジュブナイル映画にありがちな、子ども騙しのテンプレート的な会話が一切ない。どこか三浦直之(ロロ)的だし、坂元裕二的でもある。また、子ども達の演技もいい。大林宣彦作品でお馴染みの細山田隆人、現在はPASSPO☆アップアップガールズ(仮)の振付師として名を馳せる竹中夏海。ガキ大将の小田桐司や言葉を話さずに笛でコミュニケーションをとる三好憲を演じた無名の2人も実に素晴らしい。しかし、何と言ってもシリーズの看板である前田亜紀だろう。彼女が演じる今井なな子の演技メソッドは幼心にも強烈なインパクトを残した。

なな子「ケチ。連れてってくれないと木に登っちゃうぞ」
直弥「登れよ、猿」
なな子「カツラかぶっちゃうぞ」
直弥「ちょんまげなんだろ、どうせ」
なな子「コタツ出しちゃうぞ」
直弥「お前ん家、床暖房じゃん」
なな子「お相撲さんにサインもらっちゃうぞ」
直弥、無視
なな子「キライになっちゃうぞ!」

何の説明もなく、当たり前のように”不思議ちゃん”であり、そのやり取りは本筋とは何ら関係ないのだけど、あまりに鮮烈な印象に残す。子ども達の別れのシーンにおいても、このやりとりが再び繰り返されるのだけど、それがまたいいのだ。

司「二度と来んなよ」
杏子「次はあんたが東京に来る番よ」
なな子「来ないと靴下脱いじゃうぞ」
直弥「ついでに爪切れよ」
なな子「餃子作っちゃうぞ」
司「ニラ入れるなよな、俺キライだから」

いやはや、オリジナル過ぎる。しかも、夜を経た事で、なな子の不思議っぷりに対する周りの反応が”ツッコミ”から、”ちょい乗り”に変容しているのがいい。本筋とは関係ない枝派、その充実こそがそのまま作品の豊かさに繋がるのである。



兼ねてよりこの良質なジュブナイル映画としての『学校の怪談』シリーズの復活を悲願としていたのですが、昨年15年ぶりに『学校の怪談 呪いの言霊』(2014)として復活。しかし、これが前4作に似ても似つかぬ典型的なジャパニーズホラー作品で、本当にガッカリさせられてしまった。ぜひとも、今度こそは正式にナンバリングを後継し、子どもが劇場に足を運び、夏休みの思い出として刻まれる『学校の怪談5』の復活を望みます。