青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ロロ『いつだって窓際であたしたち』

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ロロ『いつだって窓際であたしたち』を横浜STスポットにて鑑賞。こちらは「いつ高シリーズ」というロロの青春連作偶像劇プロジェクトの1作目にあたる。このプロジェクトは「高校生に演劇を観てもらいたい!」そして「もっと演劇を楽しんでもらいたい」という想いから始まっているそうで、作品も高校演劇のフォーマットに則り作られている。上演時間は60分。更に、制限時間10分内での演者自身による舞台上の仕込みも観客に披露される。制服を纏った演者達が天井から窓枠を吊るし、そこにカーテンを掛ける。そこに机と椅子が並び始めると、舞台上に教室という空間が現れる。更に舞台奥に扇風機が設置される様子を観て「カーテンというのは揺れる為にあるものだものな」と、物語が始まる前から少しグッときてしまったりするのです。楽しい。



そして、本編なのですが、これが素晴らしいのなんの!まじまじと作家・三浦直之の進化を見せつけられた。”高校生”という対象の存在が、逆説的に彼を大人にさせたのだろうか。ロロの大きな特徴であった目まぐるしいほどの展開や情報量は抑えられている。恋をすると身体が光出したり、200年を生きたりする事もなく、幽霊もゾンビも出てこない。普通の会話と当たり前の時間が、舞台には流れている。しかし、この会話劇がとにかく見事なのだ。スマートでスウィート。他愛のないお喋りなのだけど、発された言葉のイメージがとめどなく繋がっていき、永遠みたいな時間を作り上げている。永遠に続くお昼休み。お得意のポップカルチャーの引用も控え目ながらも登場して、これも楽しい。ジャンプを片手に「冨樫(義博)、休み過ぎだよなー」という会話から、「微笑みの爆弾」(『幽☆遊☆白書』のOP曲)を歌い出してしまうとか、『学校の怪談』の話題から前田亜紀南アルプス天然水のCM(名作)に繋がるとか、これまた会話同様にスムースに繋がり流れていくのです。これまでのロロの作品に比べても、脚本に散りばめられたアイデアがどれもあまりに秀逸。崎陽軒シウマイ弁当の食べ方だとか、内臓逆位のため、心臓が右にある(『とってもラッキーマン』だ!)少年が校庭のトラックを時計周りで走るだとか、その少年の走りに合わせてグーグルマップを進めてバーチャルに旅をする少女だとか。ちょっと冴えわたり過ぎ。興奮のあまり涙ぐんでしまうではないか。かねてから、「ポスト坂元裕二は三浦直之である」という持論を秘めていたのですが、今作でその想いは更に高まりました。三浦直之がいつか月9ドラマを執筆する事を夢見ています。



女子に話しかける事ができない冴えない男の子のお話。それらは(高校生をはじめとした)観客に多大な共感を与えていきながらも、童貞マインドやディスコミュニケーションという枠に回収される事なく、世界との距離を描いていく。今作は美術が固定されており、”教室”という舞台を離れる事はない。しかし、登場人物の会話を通して、目には見えない空間や人々が無数に立ち上がり、豊潤に物語は拡がっていく。カメラが向けられる事のない窓の向こうには無数に世界が広がっているのだ。そう、いつだって私達は、揺れるカーテンに包まれ、窓の向こうを眺めていた。越えられるはずのない壁(=窓)を、風が、歌が、シウマイの匂いが飛び越えていく。今作には演劇を観る喜びが満ちている!終演後、吊るされたままの窓枠を遠目で眺めていると、うっすらと”ロロ”という文字が浮かび上がってきて、私はすっかり感動に包まれてしまったのだ。



<追記>
・素晴らしい公演チラシは西村ツチカ先生!
・揺れるカーテンと青春で思い出されるは奥田亜紀子の名作『ぷらせぼくらぶ』
・ラストにサニーデイ・サービスの「真っ赤な太陽」がイヤフォンから漏れる
・表通りで二人はからからから回りするんだ
・役者さんも全員素晴らしかった
・歌って飛んで跳ねる亀島さん
大場みなみさんの演じたヒロイン像、完璧
・漫画を読むスピード(ページをめくる速度)が一緒、というトキメキ方
・太郎への想いが恋か確かめる、という将門の行為に一切のツッコミがないのが泣ける



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