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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ピエール・コフィン/カイル・バルダ『ミニオンズ』

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ユニバーサルピクチャーズ傘下のアニメーションスタジオ、イルミネーション・エンターテイメントが誇る世界的大ヒット作「怪盗グルー」シリーズ

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の人気キャラクターであるミニオンを主役に据えたスピンオフ作品。素晴らしい!サブキャラクターのスピンオフという事で、コアなファン向けと思う事なかれ。おそらくこれまでのシリーズ2作を観ていなくても存分に楽しめる一大エンターテイメントでありまして、万人にオススメできるファミリームービーに仕上がっている。個人的には同時期の公開となったピクサー・アニメーション・スタジオの新作『インサイド・ヘッド』(2015)への不満を解消してくれる、見事な活劇で、純然たるアクション映画だ。ミニオンを愛し過ぎたスタッフの「こういうミニオンを書きたい」という想いが映画を牽引している。画に物語が引っ張られるとはこういう事だ。これは往年のディズニーや宮崎駿の各作品に内在されていたアクション性である。初期のピクサーにしても、そもそもはコンピューターグラフィックソフトの開発がメインの会社であり、映画作品は「うちのソフトならこういう画を作れますよ」というサンプルのような意味合いを持っていたのだ。傑作『モンスターズ・インク』(2001)
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にしても、当時としては目を見張る技術だったはずのサリーの体毛、それをどう揺らすのか、が映画を動かしていた。優れた映画作品はそういう風にして作られていく。


あのおそろしく良くできた『インサイド・ヘッド』の何が不満かと言えば、ライリーという少女の行動の起因が、擬人化された”感情”の指令によるもの、という構造に他ならない。映画におけるアクションやイマジネーションが明確に(しかもおそろしいことに心理学的に)システム化されてしまっている。

こう思っている。だからこう動いた。こう思っている。だからこう動いた、という因果に陥っている「動き」は、すべからく説明にしかならない。「怒った」から「殴った」ではなく、「いきなり走り出した」、なんで?「あ、怒ってる!」という予想を超えた瞬間が世の中にはある。そこには常に複数のエモーションがあって、何が出てくるかわからない潜在層が重なっていることで、人がただそこにいるだけでも緊張感が生まれる。

これは昨年刊行された塩田明彦の名著『映画術 その演出はなぜ心をつかむか』

の一節だが、これをそのまま『インサイド・ヘッド』に乗り切れなかった理由、そして『ミニオンズ』への称賛の理由にトレースしたい。『ミニオンズ』においても謎の生物ミニオンが、突拍子もなく走りだす、転げ出す、ふざけ出す、笑い出すetc・・・その後を意味が、物語が追いかけてくる。それ故に、ミニオンのアクションは無色透明で、どうしょうもなく可笑しくてかわいくて面白いのである。もっとわかりやすく書けば、「ダメダメ!そんな事したら危ない!」とか「なんでそっちに進んじゃうかなー」とか思いながら、ハラハラと作品を観るのが、映画のプリミティブな魅力なんじゃないか、という事だ。世界中の人類言語を適当に織り交ぜた(タモリ!)響き重視のミニオン語もいい。これも意味は後からついてくるのだ。

ディズニーやピクサーがストーリーを最も大切にしているとしたら、僕が最も大切にしているのはキャラクターなんだ。

これは『Rea Sound』での宇野維正によるクリス・メレダンドリ(シリーズのプロデューサー)へのインタビューからの発言。
realsound.jp
アクションを通して、「キャラクターがそこに存在する」という事を徹底的に磨き上げる事で、映画をクリエイトしていく。新鋭イルミネーション・エンターテイメントの精神がうかがえる貴重な文言だ。


溢れんばかりのポップカルチャー愛にもニヤケが止まらない。THE BEATLESTHE ROLLING STONESTHE KINKSTHE WHOJIMI HENDRIXTHE DOORS、THE MONKEYS、QUEEN、Donovan、Box Tops(!)といった英米のロックンロールが流れまくります。そんな中、スチュアートの弾くギターソロがVan Halenの「Eruption」なの最高だ。先の『Rea Sound』のインタビューにおいても

たとえば、背景を描く上でライティングの参考にするために、リチャード・レスターの映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』を穴があくほど観て、あの作品におけるライティングを再現している。60年代の映画のライティングって本当に独特で、それをここまでちゃんと再現したアニメーション作品は他にないと断言できるよ。

という発言が飛び出しているが、輝かしきポップミュージックに彩られ躍動するミニオンを観ていると、この『ミニオンズ』をアイドル映画と見立てる事も可能な気がする。ミニオン達は映画のジャンルも横断する。恐竜、原人、エジプト、吸血鬼、軍人etc・・・と序盤におけるミニオンのボス探しはエンタメ映画を巡る旅のようだ。いや、「映画を着替えていく」という表現がふさわしいかもしれない。ミニオンがキュートなコスプレを着替える度に映画が切り替わる。以降も、スパイ、ヒーロー、王室とジャンルをごちゃ混ぜながら、果てには『キングコング』オマージュまで果たしながら、シリーズのはじまりに辿り着く。2017年にシリーズ3作目の公開を予定しているようだが、ヤンググルーとミニオンの交流を描いたスピンオフ2作目にも期待したいものです。最後に本当にシンプルな事を書けば、とにかく明るいミニオンが大好きです。「クリーチャー(怪物的なニュアンスで)」と罵られようとも、拷問にかけられようとも、すぐにふざけてゲラゲラと笑い飛ばすあの姿勢!最高にクールなんだなー。