青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

Joe Barbieri『アパートメントの宇宙飛行士』

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イタリアの誇るSSW、Joe Barbieri(ジョー・バルビエリ)のニューアルバム『アパートメントの宇宙飛行士』が素晴らしい。カエタノー・ヴェローゾチェット・ベイカー(2013年にはトリビュートアルバムも制作している)と比較されるその静かな”ささやき声”で歌われる極上の室内楽メロウポップ。youtu.be
ボサノバとジャズを基調にしながら、同郷のエンニオ・モリコーネを想起する管弦のチェンバーな楽器の鳴りと共に複雑に展開していく。そのスタイルはどこかブラジルのMPBポップスに通ずるものがあるが、南欧出身のジョー・バルビエリの音楽はどこまでも甘美さを湛え、その豊潤な音楽世界への敷居を低くしている。50sポップスやソフトロックのファンにも訴えかけるものがあるであろう、その黄金律を編み込むソングライティングは実に耳馴染みがいいのだ。高尚さ、複雑さを隠すように”砂糖”でコーティングした表現というのは、えてして軽んじられがちではあるが、極上の甘さ、というのはやはり称賛されてしかるべきだ。「クワイエットジャズ」というジャンル分けをされており内省的な音楽のようであるけども、リード楽曲「L'ARTE DI MERAVIGLIARMI」のような、ラテン的なアップテンポチューンもいくつか収められており、アルバムとしてのバランスもとてもよい。


ジャケットとタイトルも抜群にいいではないか。タイトルどおり、部屋にいながらにして、イマジネーションの旅に出る(もしくは宇宙空間においてもベッドルームのようにリラックスしている、というミーニングもあるのかもしれない)。その旅はボサノバからタンゴ、ファド、サンバ、ボレロなどのワールドミュージック、各地固有の楽器の音色を吸収しながら、ジョー・バルビエリの音楽として放出されていく。それでいて、我々に一方的にコンプレックスを押し付けてくる「世界を放浪した俺」といったインティライミ的な暴力性はなく、あくまでイマジネイティブな旅情だ。こういった”カナヅチにも関わらずビーチポップを量産し続けた”ブライアン・ウィルソン的な感性にはどうしたって弱い。ジョー・バルビエリ、趣味のいいリラックス音楽としてだけ消費されるのは、あまりにもったいなく、幅広い音楽好きにオススメしたいアーティストでございます。