青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

丸善の文化の香り「檸檬爆弾ケーキ」と「マナスルシューズ」

東京駅周辺をブラついたついでに、丸善日本橋店に行ってきた。現在、本店は丸ノ内店という事になっているが、やはりこの日本橋店が本店という感じだ。なんでも、登記上は日本橋店が本店らしい。丸善に足を運んだのは、実に些細な理由で、最近購入した靴にある。ライターのさくらい伸さんがブログで頻繁に綴っている「三交製靴のラキッドシューズ」という名の革靴。
sakurais3.exblog.jp
ちょうどプレーントゥの黒い革靴が欲しいと思っていた矢先にこの記事に出会い、僕の物欲はパーンと膨らみ弾けてしまったのだ。注文をする事、約2週間。「即日配達が主流のこの時代に2週間!?」と思うなかれ、三交製靴のラキッドシューズは注文を受けてから職人の方がハンドメイドで作り上げるのだ。9割以上の工程を手作業で行う、からなのかは定かではないが、異様な足馴染みの良さ。足の裏が、ゆっくりと沈み包まれていく感触。創業90年という時間の積み重なりや、職人仕事というワードの甘美さが心をくすぐり、この靴に”特別さ”を感じるのに、そう時間はかからなかった。ルックスも機能性もいい。必要以上につま先の尖がった靴、と、雨の日に底がツルツルとすべる靴、に伸びるだけの舌を出していきたい私としては、このラキッドシューズはまさにうってつけだった。20,000円、という値段もいい。年収や考え方で、靴に出す値段というのは、5,000円までだったり、はたまた100,000円だったり、人それぞれだと思うのだけど、個人的には、消耗品でありながらも、ファッションの観点からも、「歩く」という根源的な運動を支えるという観点からも、実に重要な位置を占める靴に対しての対価として、20,000円というのは実に心地いい数字だ。少し話が逸れてしまった。私はその靴を履いて雨の日本橋を彷徨い、丸善に辿り着いた。詳しくはブログ『帰ってきた「喫茶と軽食さくらい」』を参照して頂きたいのだが、この靴は元々、丸善がかつて百貨店のような形態を持っていた頃に、「丸善マナスルシューズ」として卸されていたものなのだそうです。すっかり、その魅力にとり憑かれていたので、何となしにかつてこの靴が売られていた空間の匂いでも嗅いでみよう、という気になったのだ。勿論、建物は全部建て直されてしまっているのだけど。ここで、1つ残念なお知らせを挟んでおくと、三交製靴は廃業する事が決まり、今年の3月でほぼ全ての商品の発注を打ち切っている。ジーザス。ギリギリの滑り込みだ。この靴との出会いをもたらしてくれたさくらいさんに感謝をすると共に、この記事が誰かにとってのそのような出会いのきっかけにならない事をとても残念に思います。



一通り店内を眺めた後、1日中歩き回った疲れと空腹を、ハヤシライスの匂いが刺激する。真偽は定かではないようだが、ハヤシライスの名称の由来は、丸善の創業者である早矢仕有的(ハヤシユウテキ)という説があるらしく、丸善内のレストランではハヤシライスを大々的に展開(缶詰まで販売している)している。「プレミアムハヤシ」や「カレーライスとのハーフ&ハーフ」果てには「グリーンカレー」まで、魅力的なメニューが多く見られたが、最もオーソドックスな「ポークハヤシ」を注文。
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またメニューのデザート欄で目についた「檸檬ケーキ」なるものも頼んでみる。
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檸檬の中身をくり抜き、そこにレモンムースを詰め込み、ホットレモンソースをかけて食べる洒落たスイーツだ。私はレモンクリームやレモンクッキーといった檸檬のスイーツには目がない。檸檬そのものも好きだ。色も好きだし、形も好きだ。そして、頭の中に

つまりはこの重さなんだな

ときた所で、やっとのこと、丸善で「檸檬ケーキ」が特別なものとして提供されている理由に気付いたのです。

その重さこそ常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、思いあがった諧謔新からそんな馬鹿げたことを考えてみたり――なにがさて私は幸福だったのだ。

檸檬 (新潮文庫)

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そう、梶井基次郎の永遠のマスターピース『檸檬』の舞台は丸善(京都河原店で、2005年に閉店)だったではありませんか。つまり、この「檸檬ケーキ」というのは、梶井基次郎の仕掛けた「檸檬爆弾」を己の腹の中に収めてしまおうという大変けしからん催しなのだ。三交製靴は創業90年、丸善は創業120年。脈々と続く文化とハヤシライスの香り。素敵じゃないか。梶井基次郎ファンは丸善日本橋店もしくは丸ノ内店に足を運んでみる事をオススメするのであります。