青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『問題のあるレストラン』9話

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彼女の顔を思い出してください
それが藤村さつきの願いです

そうか、このドラマはそういう物語だったのだ。男性社会に傷つけられながらも、匿名性に埋没してしまう女性達。彼女達の顔を思い出し、その家族、友人、生活、夢、そういったものに想像力を働かすべきなのだ、と訴えている。几(おしまづき)、烏森(からすもり)、三千院(さんぜんいん)、門司(もんじ)、と珍しく、仰々しく珍しい名前が並ぶ中で、主人公の名が「田中たま子」という、ごく平凡で、どこか匿名性を帯びた響きを与えられている事にも合点がゆく。その名前なりフォルムなり、どこか丸味を帯びたニュアンス、は”女性”という記号を託されているのだろう。しかし、我々はこのドラマを通じて、「田中たま子」という無個性な名前を持つ女性の、個性的なモノの考え方を知っている。その唯一無二の固有な人格の魅力を。そして、個性豊か過ぎる「ビストロフ―」のメンバーが一つ屋根の下で愉快な共同生活をする様。人はそれぞれ違う考え方を持ち、お互いにすれ違っていくからこそ面白い。若人よ、”量産型女子”量産型男子”などという言葉に巻き込まれるなかれ、という坂元裕二の強いメッセージを感じる。



8話でたま子(真木よう子)が門司(東出昌大)に向けた言葉には驚いてしまった。

まっすぐな線と、まっすぐな線って、一度重なったら、後はもうずーっと離れて行くだけでしょ?
そういう2人だったんだと思う

2つの線は交わった後、無限に離れていく。これではあまりに切なすぎるではないか。これまでの坂元脚本の2人はすれ違いながらも、同じ方向を目指して進んでいたはずなのだ。『それでも、生きてゆく』での洋貴(瑛太)と双葉(満島ひかり)。

僕ら、道は、まぁ、別々だけど、同じ目的地見てるみたいな感じじゃないですか
・・・それって、すっごい、嬉しくないすか?

もしくは『最高の離婚』での光生(瑛太)と結夏(尾野真千子)は対岸関係にある座席に腰を下ろし、永遠に平行線をたどりながらも、同じ列車に乗りレールを進んでいった。であるからやっぱり、『問題のあるレストラン』においても9話の会議室での大演説をきっかけに、たま子と門司は向かい合いはじめる。

人と人が集まるのは、見下ろしたり見上げたりするためじゃないですよね。出会いにドキドキしたり、言葉や心が通ったり、すれ違ったりするのを楽しむため。思い出を家に持ち帰って、眠る前に嬉しくなるため。私たちの仕事は、テーブルを挟んで向かい合った人と人との間に美味しいご飯を用意することです。

テーブルを挟んで向かい合う人。その2人はやはり、平行線上に永遠にすれ違っていくのだろう。しかし、その2本の線の間のテーブルには”料理”がある。『問題のあるレストラン』における”料理”(=仕事)とは、平行線を辿る2人が、すれ違ったままに、結びついてしまう、そんな心が震える奇跡の瞬間のメタファーである。巷で話題の"特別なスープ"が何故あったかいのか、に挑んだ坂元裕二の意欲作、次回ついに最終回です。