青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『問題のあるレストラン』6話

f:id:hiko1985:20150224205803j:plain
何といっても脚本のイメージの連なりだ。

近所の飲食店に鼠が出たらしい→実写版『レミーの美味しいレストラン』はまずい→「ビストロ フー」も厨房を捜索→「魑魅魍魎厳封之証」と書かれたお札の貼られた木箱発見→中には呪われていそうな”しゃもじ”→千佳が読んでいる漫画が『魔太郎がくる!!』→「このうらみはらさでおくべきか」→"呪い"はたまた"妖怪のしわざ”かもしれない不幸が「ビストロ フー」に起こる→鼠が配線をかじり店の周り一帯が大停電の夜

この一匹の鼠がもたらす一連の繋がりの見事さ。そして、呪いのしゃもじの怪談は、"女性が男性に傷つけられる物語"の古典である『四谷怪談』に帰着するのだ。男に殴られ、瞼を腫らした川奈(高畑充希)が携帯のライトを掲げて現れる姿は、提灯を持って現れる「お岩さん」に重ねられる。しかし、川奈の表情はどうだろう、実に晴れ晴れとしている。『四谷怪談』では復讐を果たす女であったお岩さんが、この『問題のあるレストラン』においては"光を持ち寄る人"に書き換えられているのだ。その光によって、「ビストロ フー」もまた変容する。傷ついた人々が集い、”空を見上げる”屋上であった「ビストロ フー」は大停電のその夜に、暗闇の中にいる誰かの為の道標となる"灯台"となる。では、お岩さんの”怒り”はどこへ行ったのか?そこで、魑魅魍魎の封印を解いてしまった張本人であり、実は弁護士であったことが明かされた烏森(YOU)のこの台詞である。

復讐って怒るだけじゃできない。ちゃんと楽しく、綺麗に生きることも復讐になる。
田中は楽しく綺麗に生きることを目指しなさい。私は怒る方をやる。

溜息が出るほど見事な脚本構成。シークエンス同士が絡み合い、振動している。烏森が「守らなくては」と思い立った、若き3人の女性達が光に包まれている様子を綴ったシーンの美しさよ。

私は冷蔵庫にアイス入れておいてくれれば、それで

と男性に求める条件にまで持ち出していたアイスを、川奈が新田(二階堂ふみ)に分け渡す。いつも残ったものしか選べなかった新田が率先して好みのアイスを自ら選びとる。同じくいつも残った緑色しか選べなかった川奈の元に、本当は選びたかった赤色が手渡される。そして、3人を繋ぐシューベルト三代目J Soul Brothers的な、西野カナ的な恋愛に疲弊した新田の耳に。また、その髪を耳にかき上げる印象的な仕草から「ミミ」と命名された川奈のその”耳”にイヤーフォンが差し込まれる。*1 対人恐怖症であり、その象徴ともいえるパーカーのフードに隠れた耳に同じようにシューベルトピアノソナタ第21番変ロ長調D960・第1楽章」が流れ込み、痛みを分け合った千佳が実感したかのように、諭すように、呟く。

生きててよかったな
生きような

まるで”福音”のような、文句なしの前半戦のハイライトシーンだ。



しかし、疑問点も多くある。キリがないので少しだけ。所謂「坂元節」とも呼ばれている長台詞が精彩を欠いている。世間から「Twitterや女流コラムを徹底リサーチしている感じ」と、称賛とも揶揄とも取れる評価を受けているが、個人的にはどうもピンと来ないのだ。世間に媚び過ぎているように感じる。6話でのたま子(真木よう子)によるビニール傘の挿話も、言いたい事は分かるが、例えとして全然上手くない。このような精彩を欠いた長台詞が発されると、時間が止まる、ドラマが停滞するような印象を受ける。しかし、例えば5話の

今日みたいな夜が明日、明後日、明々後日ってだんだん増えていって、それがどんどん結果になっていって今日みたいな夜がまた来るかもしれないと思えたらもうこんな素敵な仕事ないじゃないですか!

これだろ、坂元さんはこっちだろう!と狂喜せずにはいられない、小沢健二マナーだ。こういうのをもっと期待していきたい。ここから、舞台は法廷にも枠を広げるのかもしれないが、坂元裕二は弁護士を主人公にした『わたしたちの教科書』(2007)で向田邦子賞を受賞しているのを忘れてはならない!期待しています。

*1:門司が無関係を装って差し込むイヤーフォンと対照的だ