青春ゾンビ

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小山内美江子『3年B組金八先生』第5シリーズ

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私は『3年B組金八先生』の大ファンで、一通りのシリーズには目を通しているのだけど、とりわけ思い入れが強いのがこの第5シリーズだ。リアルタイム放送時、生徒達と完全に同世代であった事も大きいが、そういった個人的事情を抜きにしても、第5シリーズ最高傑作説は揺るがないだろう(「15歳の母」や「腐ったミカンの方程式」の第1、2シリーズ至上主義の方がいらっしゃるというのも理解しますが)。まず生徒役の充実が挙げられるだろう。市村篤、入船力也、太田アスミ、小野寺良輔、落合加奈恵、加藤バーバラ、坂本幸作桜田友子、鈴木サオリ、戸田幹洋、日野敬太、比留間和憲、深川明彦、松岡敏江、森山慶貴、安井ちはる、山田邦平・・・実に愛すべき面々が揃っている。そして、何といっても、”主役”と呼んでしまっても過言ではない兼末健次郎(風間俊介)の存在だろう。
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表向きは完璧な優等生を演じながら、裏ではクラスメイトの弱みを掌握する事で、自らの手を汚さず、前担任(ラサール石井)や老人への暴行まで画策する。金八をして「あいつは”毒”だな」と言わしめる、完全なるダークヒーロー。クールな諦観と激しい衝動を内包する難しい役柄を、ほぼ新人と呼んでさしつかえない立場から、見事に演じきった風間俊介の貢献には、どんな称賛も惜しむまい。文句なしの歴代No.1生徒だ。第5シリーズ以降、過剰演出に歯止めが効かなくなり、更なる悲劇を背負わされる第6シリーズの成迫政則(東新良和)、第7シリーズの丸山しゅう(八乙女光)にしても、風間と同じくジャニーズ俳優が起用されるが、どうしたって役不足で物足りない。風間に対抗しうるのは第7シリーズで狩野伸太郎を演じた濱田岳くらいか。

風間俊介はこの後も、『それでも、生きてゆく』の雨宮健二や『映画 鈴木先生』の勝野ユウジなど、どこか”兼末健次郎”を重ねたキャスティングが目立つ。どれも怪演を見せているが、やはり本家である今作をキャリアハイに推したい。余談ですが、今作の影響のせいか、私は未だに風間君は嫌なやつに違いないと思っているし(好きだけど!)、ラサール石井の事をどこか低く見てしまうきらいがある。それほどに、生徒達から血を吐くまで暴行を受ける中野先生(ラサール石井)の姿は衝撃的だった。なんとて、そのシーンは1話の冒頭にて流れるのだ。見た目も不良とは言えないごく普通の同世代の子ども達が、先生をボコボコにするという不穏さ。今後2クールも続くというのに、この恐ろしい生徒達を好きになれるのだろうか、と心配になったものです。そこで、登場するのが、臨時担任の坂本金八武田鉄矢)である。全く、武田鉄矢というのは偉大な俳優だ。あの風体、刻まれた皺や脂肪の重み、そして低音の聞いた圧倒的な響きを持つ声、まことに得難い俳優である。武田本人はあんなにもいやらしく嫌なやつそうなのに、坂本金八としての彼は一挙手一投足が愛おしく、エモーショナルで涙を誘う。金八先生が走る、その不格好でありながら心を打つ、あのフォームを君は見たか!?さて、そんな金八先生が、いかにしてこの崩壊した3Bを立て直していくのか、が今作の見所になる。


物語は2クールという豊潤な尺をふんだんに使い、無数の寄り道の中でやや偏った思想を撒き散す。しかし、圧倒的な物語のドライブ感で、視聴者を引き付けていく。物語や台詞の裏で様々な運動がうごめく豊かさ、みたいなものははっきり言ってこの『3年B組金八先生』という作品にはない。例えば、健次郎の抱える”闇”にしても、そこには明確な理由が存在しており、不明瞭な感情に、想像を託すような隙はない。だが、この作品には、物語と感情に呑み込まれるカタルシスがある。そのエネルギーの迸りに、ただただひれ伏すしかないのであります。ハイライトは、これまで健次郎に騙された振りを続ける好々爺であった金八が、カリスマ教師としてのベールを脱ぐ第11回「金八涙の体罰…3B騒然辞表提出」、生きるという事の温度を死をもって伝えてくれる第19回「生きる事・死ぬ事」、そして、健次郎の壮大な逃走劇が繰り広げられる第20回「ガラスの少年・③」でしょうか。兄を探したい、と同時に金八に見つけて欲しい健次郎の相反する複雑な感情を見事に演じ切った風間と、それに応える武田鉄也の涙と鼻水にまみれた演技合戦は、とにかくもう「観てくれ!」としか言えません。


3年B組金八先生』という作品が、演出の過剰性を増していきながらも、長年に渡って支持されてきたのは何故だろう。それが如実に現れている回を紹介したい。第17回「ガラスの少年・②」だ。隠し続けていた秘密が世間にばれ、不安に潰されそうになる健次郎の元に金八から電話が入る。家の外では火事でもあったのだろうか、けたたましくサイレンが鳴り響いている。健次郎は、ふと違和感に気づく。電話の先の金八の場所からも同じサイレンの音が聞こえるのだ。ドアを開け、庭に飛び出す健次郎。すると案の定、家の門の前には、電話を掲げた金八が立っているではないか。堪らなくなり、裸足で金八の元に駆け出す健次郎。彼を抱きしめながら、金八はこう言う。

何も言うな健次郎
わかってる、 先生わかってるから

これぞ、演出だ!と言わんばかりの古典的な手法だが、これはもうほぼ少女漫画の文法ではないか。どうしても側にいて欲しい時は、必ずや現れてくれる、そして何も言わずともわかってくれる。時には優しく包み、真剣に相談に乗り、時には叱ってくれる。そう、「金八先生」とは希望と不安の間に揺れる不安定な思春期のボーイズ&ガールズの理想の恋人なのだ。『3年B組金八先生』とは金八と無数の生徒達のラブストーリーのポリフォニーであると言える。思春期の諸君、そして青春ゾンビの皆様、誰もが必見の作品です。


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