青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

森脇真琴『ドラミちゃん ミニドラSOS!!!』

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ドラミちゃん ミニドラSOS【劇場版】 [VHS]

ドラミちゃん ミニドラSOS【劇場版】 [VHS]

 

ドラえもん映画祭」で森脇真琴『ドラミちゃん ミニドラSOS!!!』を鑑賞。いやー素晴らしい、本当に素晴らしいです!1989年の『ドラえもん のび太の日本誕生』と同時上映だった中編作品で、個人的には最初のリアルタイムドラ映画でもありまして、想い入れの強い作品なのですが、改めてスクリーンで鑑賞してみると、フィルムから溢れる幸福感に終始涙ぐむ事となりました。たおやかな春の日差しの中にめくるめく未来都市。建物は高く、車のみならず、学校やレストランも空を飛ぶ。舞台は2011年春。“あの日”になぞらえて感傷的に気持ちになるつもりはまるでないのだけど、わたしたちの夢想した2011年はこんな未来だったはずだ。のび太の息子ノビスケの部屋に置かれた未来の風景には少し似つかわしくない古びた勉強机。その引き出しから球状の物体が飛び出す。それが別に物に当たり、また別の物に当たり、ドミノ倒しのように運動が持続していく。そして映し出される壁に飾られた家族写真。ドミノの運動が、我々の知り得なかった野比家の時間を繋げていく。このOPの演出の見事さだけでもう胸がいっぱいになってしまう。

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よく知ったあの4人の30代の姿(中年のび太がヒョロヒョロな体型で描かれているのは非常にレアである)、その変わった部分、変わらない部分に胸が震える。すっかり様変わりした未来の町にもまた、変わらない部分がある。たとえば、あの”空き地”。その場所で駆け回るのは、親達の性格を見事なまでに反転させた息子達である。のび太の息子はせわしなく乱暴で、ジャイアンの息子はおとなしく心優しい。スネ夫の息子はあまり変わらないが、お金持ちの具合はグレードアップしている。「お前のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノ」のジャイアニズムは1mmも継承されず、ノビスケからの贈り物を「悪いよ~」と頑なに拒否するジャイチビ。迷言「のび太のくせに生意気だぞ」はノビスケからの「スネ樹のくせに生意気だぞ」に反転している。こんな3人と小さくてかわいいミニドラが、未来のデパートやスーパー(スーパーマーケットジャイアンズ!)などを舞台に巻き起こす活劇の楽しさときたら。ジャイチビとスネ樹がミニドラを→ノビスケがスネ樹を→ドラミが3人を、と映画は追走劇を基本として駆動していく。そのラストの逃走で大活躍をみせる秘密道具「ソーラーヨット」が、(海底に潜るとは言え)猫型ではなく、ドジでノロマな亀を模した造型である事に、勝手に意味を読み取りたい。つまり、あのソーラーヨットは”野比のび太”なのだ。エネルギーが切れ、深い闇に包まれた海底に沈んでいくヨットに、あり得ないはずの”光”が降り注ぐエンディング!叶うはずのない夢を叶えてくれる『ドラえもん』という作品のヴァイブスを継承した完璧な構成である。音楽や美術も素晴らしく、この一本をドラえもん映画の数多ある中編のベストに挙げたい。

 

 

余談だが、未来の野比家のリビングにかつての野比家の庭に生えていたあの”柿の木”が置かれている事に興奮。

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後ですね、「東京都練馬区月見台すすきが原」に住むのび太の町に、しっかり西武線が走っている(しかもリニアモーターカーと並走して)のに感動しました。

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