青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

九井諒子『ダンジョン飯』

amazonでも在庫切れ、店頭でも売り切れが続出。"天才"の冠を捧げる事に何のためらいもない九井諒子の初の長編はその期待と評判を裏切らない作品だ。作画、コマ割り、キャラクター造形、台詞(ギャグのリズム)、小ネタ、どれをとっても上手過ぎる。どちらかというと歪なものを愛好する私ですが、ここまでウェルメイドだとグゥの音も出ない。何と言っても最大の魅力は短編集でもいかんなく発揮されていた"本当ではないこと"の細部を徹底的に詰める事でリアリティを灯す手法。(凡庸な引用をしてしまって申し訳ないが)ラーメンズが『ATOM』という公演の「アトムより」で使っていた台詞で

日常の中の非日常ではなく、非日常の中の日常を描く。一見すると異常な世界観だけど、その世界の住人達にとってはいつもの出来事って感じがするのす。それが心地いいのすのすー。

というのがあって、今作は(というより九井諒子という作家の持ち味は)まさにそれだろう。タイトルからもうかがえる通り、今作はRPGゲームの世界におけるモンスターを食材としたグルメを描いた作品。グルメ漫画の体裁を踏襲し、細かい情報や豆知識をふんだんに折り込みんでいるのだけど、当然ながらその実用性はゼロだ。「そんなグルメ漫画、何の意味が・・・」と思うなかれ。実用性という"結果"から解放されたそのディテールの数々は、驚くほどに豊かでみずみずしい。細部が躍動する、というのはこういう作品に付するにふさわしいのでしょう。でも、やっぱり1番凄いのは、その売れ行きからも証左ですが「誰が読んでも面白い」であろう大衆性を、作家性をなんら削る事なく獲得している事でしょう。改めて、天才の一言。