青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ロンリー『楽しいVoid』


ロンリーという岡山の4人組バンドがリリースした7インチ『楽しいVoid』がとてもいい。まだライブを観た事がないので、ロンリーの奏でる音楽がパンクなのかハードコアなのかスカムなのか把握しかねるのですが、この7インチから感じ取れるのは、彼らが最高のポップバンドであるという事です。「脱臼した」とか「ポンコツ」といった形容詞がふさわしいグルーヴと音色は、しかし、どうにも的確に快感のツボを抑えている。そして、突き抜けた歌心。ジョンのサンや紙コップスなどの名古屋周辺のバンドに近しいものを感じる。脱力したコーラスもいい。何より曲がとにかくいい。ミラクルポップである。「うお、最高だ!」と思っているとあっという間に終わってしまうショートチューンのその刹那。胸が掻きむしられるぜ。


「退屈を音にしたい」と言っていたのはフィッシュマンズ佐藤信治だった。もちろん彼の音楽は素晴らしいものであったのだけど、そのスモーキーな退廃さはどうにもかっこよすぎて、僕の”退屈”とはちょっと違うな、とも思っていた。スチャダラパーに「ヒマの過ごし方」なんて曲もあって、あれもまた名曲だけども、観念的過ぎてしっくりとはこない。「人生は退屈だ」とかそういう格好いいやつではなくていい。「夏休みに本当に予定がなく、やりたい事もなくて、昼過ぎに起きていいとも観ながらカップラーメン食って、口寂しいからアイス食って、ゲームを始めたら、気づいたら夜中の3時だ」みたいなそういうクソタレだけど愛おしい"退屈"を音で聞いてみたい。そして、それこそがロンリーの『楽しいVoid』なのでした。ヨレヨレながら男前なギターフレーズとニューウェーブ感のあるベースがたまらないA面1曲目の「beer」なんてこうだ。

朝 ゲロ 夏 郵便屋さん
朝 ゲロ 夏 アホ
コンビニで買った缶ビールでチアーだ

この短いセンテンスで的確に伝わってくる怠惰な美しさ。シンプルで力強いメロディーは合唱必至。酒と合唱、ゲロまみれのリアル。ロンリーは俺らのOASISなのかっ!?*1


A面の最後を飾る「hang over」の歌詞を見て欲しい。

ハンクオーバー の原因はテキーラ
今が良ければそれでいい的な
流れるプール ビデオ早送り
とても幸せな耳鳴り
いつかはパンパースはくからそれまで
黒のコンバース コンパス片手
このまま白い闇の中
100円ライター 夏の匂いかいだ
夜になると 行きたくなる海岸
聞いてもかけないテレフォンナンバー
名前も知らない草花
水着の女の子のインスタ
ビーサンぬいで歩く砂浜
汚ねー海だ 今年も潜るわ
夜になると 行きたくなる海岸
なんだか遠くで気の早い花火だ

ラッパー顔負けの巧みな韻踏み。フレーズやセンテンスに託されるイメージの広がり、そこはかとない叙情性。水着の女の子のインスト画像を、名前も知らない道端の草花と重ね、「草花」と「砂浜」で踏みながら、海に辿り着いてしまう鮮やかさ。B面には表題曲「楽しいVoid」1曲のみが収録されている。鍵盤のフレージングの味付けが絶妙なポエトリー風のインナーチューン。

なんだかすごく空っぽな気分
いつになったら終わるのか
どこに行けば楽しいのか

憧れだったバンド生活に、今では退屈さを覚えてしまう、という独白。こちらは”退屈”のもう1つの側面である空虚感に焦点を当てており、A面のポップさとは打って変わって、ひたすらにダウナー。しかし、続くバースは

笑っていいともは終了
言いたい事だけは言うよ

と力強く、さらに続けて

go easy step lightly stay free

THE CLASHの珠玉の名フレーズをサラリと引用。神様ジョー・ストラマーが言っている"気楽に行こうよ、自由気ままに"。そして、楽曲は

そんでsix packガリガリ君買って帰宅するのだ

というフレーズで締められる。この軽やかさ。まさに”楽しいVoid(空虚感)”だ。ゼロ年代に「空洞です」と言った人がいたけども、まさか、そこに”楽しい”をくっつける人達が出てくるなんて。「地方都市」というタームを抜きに彼らを語るのは正しくないのかもしれないが、できない事はやめておこう。とりあえず、「最高!」とだけ記しおく。

*1:勿論、音は似ていないのであしからず。そういった意味での日本のOASISは柏原兄弟によるNo’whrerだ!誰だよそれ、ってチビっ子達はお兄さんやお姉さんに聞くか、検索してみよう