青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

山田稔明ワンマンライブ『夜の科学 vol.45〜wish upon a star ポチに願いを』


鍵番を中心にフルート、クラリネット、ペダルスティールを加えた8人編成でのライブ。チェンパーポップと呼んでいい、角のないまろやかな音色が心地よかった。練りに練られたバンドアンサンブルというのではないのだけども、メンバーのプレイ1つ1つに、楽曲への理解というか愛のようなものが伝わってくる素晴らしい演奏だった。「月あかりのナイトスイミング」「光の葡萄」「日向の猫」「ハミングバード」といった『新しい青の時代』(2013)収録の楽曲をついに生で聞く事ができたわけですが、リリースから1年ちょっとながら、既にクラシックと呼んでしまいたい堂々たる佇まいでありました。


「wish upon a star ポチに願いを」という副題は山田稔明が13年連れ添った猫ポチの四十九日を偲ぶ、という意味合いが今回のライブにあったからだ。ファン歴わずか3ヶ月ほどの私でも、彼にとってのポチという存在の尊さは痛いほどに伝わってきていた。それほどに彼はその猫への愛を世界に向けて発信していた。そのお返し、というわけではないだろうが、ポチはGOMES THE HITOMANからソロ時代に至るまで、山田稔明の多くの楽曲のインスピレーションの源となった。彼の楽曲の中に登場する”猫”ちという単語を数えてみたら途方もない数になるだろう。ライブ中、バンドの後ろに大きく掲げられたスクリーンでは、生前のポチの姿が映し出されていた。猫という生き物の美しさを想う。それは山田稔明が一貫して歌う、生活の機微の中に潜む美しさとか光と同じ質感を持っている。それを失ってしまった山田稔明は、これからもう一度「新しい青の時代」を始める事となるだろう。しかし、今回のライブで聞く事のできた、祈りのようなたおやかなレクイエムを想えば、きっとこの経験は彼の歌をより遠くて広い場所へ連れていくのではないでしょうか。「ポチの子守唄」「些細なことのように」「memoria」といった現時点でアルバム未収録の楽曲達のポップソングとしての強度を体感するにそう確信して止みません。印象的なMCがあった。愛猫を失うという深い悲しみの中にいても、友達と話したりテレビを観ていたら笑うし、美味しい物を食べたらうれしい、といった瞬間があって、そういう複雑さがこそが、人間だな、と実感している。彼の楽曲の中に「あさってくらいの未来」という大好きな曲があって、その中でも

「うれしい」や「かなしい」じゃ なんにも伝わらない
 そんな気持ち 複雑な感情を わかりあえたらいいな

という風に歌っている。

1曲の中で「感情の一極化」を図るのが一般的となっているJ-POPとはちょっと意匠の異なる、こういうポップミュージックを僕は積極的に聞いていきたいと思うのです。


「曲の中ではポチは生きている」という風に言葉で書いてしまうと陳腐に響いてしまうかもしれないのですが、やはり映像とか音楽の中に刻まれていた生々しい”生”に触れると、芸術の「死にゆく事への抗い」という側面の凄味を改めて考えさせられる、そんな一夜となりました。更にライブのラストでアナウンスされた7年ぶりのGOMES THE HITMANライブ!!!

2014年10月11日(土)@ 吉祥寺 スターパインズカフェ
15年目の“週末”〜united state of GOMES THE HITMAN
出演:GOMES THE HITMAN
member:山田稔明(Vo,Gt)堀越和子(Key)高橋結子(Per)須藤俊明(Ba)
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メジャーデビュー15周年の今年、2007年12月以来7年ぶりのライブが決定しました。山田、堀越、高橋、須藤の4人が集合(ユナイト)した状態のGOMES THE HITMANのステージをご期待ください。15年目の“週末”は吉祥寺でみんなで合流しましょう。
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開場:17:00/開演:18:00
前売り:¥4000+1drink/当日:¥4500+1drink

空いた大きな穴を埋めるように精力的だ。10月を震えて待つ!