青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

座二郎『RAPID COMMUTER UNDERGROUND』


待望の書籍化です。ページをめくる度に紙とインクの匂いがムワっと漂い、指紋にひっかかりを感じる。そんな質感も愛おしい。「物」として所有したい欲をくすぐる1冊であります。オールカラーだし。なのに800円代だし。いきなり別の著者の名前を並べるのは無粋ですが、panpanyaの作品を愛読する人であれば、間違いなく気に入って頂ける事間違いなし。


一日の通勤時間を使って書かれた地下鉄の漫画である。はっ、まさか「座二郎」ってペンネームは「地下鉄の座席に"座"って漫画を書く男」みたいなイメージに加えて『地下鉄のザジ』のもじりなのか!?

地下鉄のザジ (中公文庫)

地下鉄のザジ (中公文庫)

超クールじゃないか。いや、待てよ、念のため調べておこう。「地下鉄のザジ 座二郎」とgoogleで検索。なんと、地下鉄漫画を書き始める前から「座二郎」と名乗っていたそうです。あっぶねー。もうちょっとで「なるほど、座二郎の作品からは、レーモン・クノーシュールレアリズムを感じなくもない」とか適当な事書いて恥かくところでした。しかし、「シュールレアリズム」という形容は『RAPID COMMUTER UNDERGROUND』にふさわしいだろう。ラフながら幻想的なタッチでもって現実を夢のような世界にトレースしている。文房具屋を営むワニ。22時発の東西線の中に洗われるBAR。サラリーマンの像。ウサギと亀の回転寿司。圧倒的な構図と緻密な描き込みで見せていくイマジネーションに富んだ魅力的なコマの数々。しかし、それは作中の言葉を借りれば「リアルな人生をほんの一部切り取ったもの」であり、例えば、地下鉄丸の内線が地上に出て、まるで電車がフワっと上がったかのように感じるあの瞬間。そういった日常の小さな興奮や煌めきを、座二郎先生は丁寧に掬いとり保存する。そして、それを「空飛ぶ電車」として表出するのです。


作中が進むにつれ、「現実」と「幻想」の振り子関係は乱れ始め、どこでもない場所に辿り着くような感覚を覚える。冒頭で執拗に繰り返される「これはフィクションです」という作者の言葉も効いてくる。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を例に出すまでもなく、列車というのは、そういった場所に連れていってしまう装置なのだろう。そもそも、通勤電車という、「家」でも「職場」でもないどっちつかずの空間はまさに、日常の空洞であり、「どこでもない場所」を表現する舞台に最適なのだろう。作品は「TO BE CONTINUED」という事ですので、次巻に刊行も心待ちにしようではありませんか。最後に細部について。僕は座二郎先生の書く「手」と「ネクタイ」がむちゃ好きです!

RAPID COMMUTER UNDERGROUND (ビッグコミックススペシャル)

RAPID COMMUTER UNDERGROUND (ビッグコミックススペシャル)