青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ラッセ・ハルストレム『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』

マイライフ・アズ・ア・ドッグ 【HDマスター】 [DVD]

マイライフ・アズ・ア・ドッグ 【HDマスター】 [DVD]

かもめんたる岩崎う大がインタビューやブログで事あるごとにフェイバリットに挙げている映画である。人前で飲み物を飲めない少年、男の子の格好をする少女、緑色の髪の少年、村人にバカにされながらもひたすらに屋根修理をし続ける男性、真冬に凍った川で泳ぐ道化師、少年に女性用下着カタログを音読させる老人etc・・・登場人物は全員マイノリティーとまでは言わないが、どこか世界からはみ出した人ばかりだ。しかし、この映画はそんな彼らの心情にクローズアップする事なく、ただ、そこに存在させる。歪であるはずなのに漂うこの心地よさは、なるほど、かもめんたるの単独公演で得られる感触に遠くないように思う。


よく考えてみればぼくは運がよかった。たとえばボストンで腎臓移植手術を受けたあの男。新聞に名は出たが死んでしまった。あるいは宇宙を飛んだあのライカ犬スプートニクに積まれて宇宙へ。心臓と脳には反応を調べるためのワイヤー。さぞ嫌だったろう。食べ物がなくなるまで地球を5ヶ月回って餓死した。僕はそれよりマシだ。

主人公の少年は自身の不幸な境遇を顧みる時、星空を見上げ、宇宙に飛んだライカ犬に想いを馳せる。これは、「宇宙に漂うライカ犬を地上に降ろしてやる映画だ」と言っていいだろう。よって、映画はいくつかの”下降”の運動に支えられている。ヌードモデルを覗こうとしての天窓からの落下、2階に住む叔父が庭に作った「あずま屋」、ボクシング場からの転落、救急車で運ばれる母を見下ろす視線、そして一度は宙づりのまま放置された手作りゴンドラ宇宙船の落下。この映画のそれらは、かわいそうなライカ犬を降ろしてやる為の、温かき運動なのだ。と思いきや、前述のゴンドラ宇宙船は下降の結果、肥えだめに突っ込んでしまったりする。このユーモアとペーソスの感覚。「人生とはそういうものだろう?」というようなラッセ・ハルストレムの筆致がとてもいい。ボクシング、サッカー、ガラス工房、ヌードデッサンといった設定もどれも瑞々しく演出してあってよい。ラストカットにおいても、「トントントン」と屋根を修理し続ける男。彼が直しているのは、空と地上の間の”下降”を支える土台である。