青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『夏目、AFTER HOURSの曲と制作時影響を与えた曲をアリエでひとりで歌うの巻』


夏目知幸ソロ音源集「Don’t Pass Me By」(2013)を購入。これが「もう現代版のRCサクセションの『楽しい夕に』(1972)じゃないか!」と少なからず思わせてくれる、揺らいだボーカルが魅力のフォークポップの傑作。アルバムは電子音の打ちこみや童謡のカバー、シャムキャッツのセルフカバーなどを含む、バラエティに富んだ内容。雑多でチープ、それでいて室内録音の親密さと無敵さに満ちた愛らしき1枚だ。何と言ってもAlfred Beach Sandalの「中国のシャンプー」の珍カバーは夏目知幸のボーカルの独特のリズムが堪能できる注目作。あの人はお喋りしているだけで歌なのだ。ぎゅう&ぎゅうに提供した「いいとしなのにね」はジョンのサンやT.V.not januaryといったバンドを彷彿とさせる、捻じれたままに牧歌的なクラシック感を手にした名曲。そ現在のシャムキャッツの端正なグルーヴとはまた異なる魅力が詰まったソロ音源集だ。お値段1000円。オススメです。


新大久保のカフェアリエにてシャムキャッツの夏目知幸のソロ弾き語りライブ『夏目、AFTER HOURSの曲と制作時影響を与えた曲をアリエでひとりで歌うの巻』を観てきました。誰が、何を、どこで、どのように、どうするのか、が明確にわかるイベントタイトルですね。まず『AFTER HOURS』から「MALUS」「SUNDAY」「PEARL MAN」を演奏。実はこれが当初考えていた曲順であったらしい。若い主人公が登場する曲を序盤に固める、というプランだったそうだが、「甘くなりすぎる」という事で見送られたとのこと。

「MALUS」と「SUNDAY」の間にスピッツの「Holiday」のカバーが挟まれる。

ハヤブサ

ハヤブサ

名盤『ハヤブサ』(2000)に収録された軽快なカッティングとリズムが牽引する爽やかなギターポップナンバーだが、歌詞に目を向けると、

朝焼けの風に吹かれて あてもないのに
君を探そう このまま夕暮れまで
Holiday Holiday Holiday
いつか こんな気持ち悪い人 やめようと思う僕でも
なぜか険しくなるほどに すごく元気になるのです

とまぁ、清々しいまでのストーカーソングなのである。なるほど、シャムキャッツのナンバーもまた砂糖にはまぶしてあるが、少し捻じれたエロティックさが隠されているような気がする。「MALUS」には小中学生のカップルの性行為、「SUNDAY」には野外露出撮影をどこか想起させる。草野正宗の変態性と女の子を愛撫して「バターみたい」と歌ってのける夏目知幸がシンクロした。夏目君曰く、スピッツの「チェリー」は今、聞くと坂本慎太郎の『幻とのつきあい方』(2012)

幻とのつきあい方(初回限定盤)

幻とのつきあい方(初回限定盤)

を感じるらしい。そして、世界感を共有する曲として、くるり「PEARL RIVER」とシャムキャッツの「SWEET DREAMS」が続けて演奏される。スピッツくるりと並々ならぬ思い入れのあるバンドが歌とギターでシャムキャッツの音楽と接続されていく興奮。そして、極めつけは「3曲でこの国の男女の関係性の経年変化を」と披露された

大田裕美「木綿のハンカチーフ

小沢健二「愛し愛されて生きるのさ」

シャムキャッツ「MODELS」

というメドレー。ハタと膝を打つこの連なり。ざっくり言えば、ずっと平行線→ずっと混じり合い→平行線が時に混じり合う、という感じ。「木綿のハンカチーフ」の物語性も、「愛し愛されて生きるのさ」の提示するラブソングの具体性と限定性もしっかり「MODELS」に息づいている。「MODELS」の音楽的な元ネタとして、ORANGE JUICEの「Wan Light」を少しだけ。今回のイベントに向けて、ORANGE JUICE やAztec Cameraなども練習してきたそうなのだけども、自分の歌のリズムと合わずしっくりこなかっとのことでお蔵入り。「自分はつくづくフォークの人なんだな、と再認識した」「でも民謡ですからね、うれしいですよ」と、夏目は話していた。その流れで演奏したわけではなかった。この日はKurt VileとRCサクセションのカバーも披露された。美しきフォークの宴である。