青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

高橋渉『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』


脚本に中島かずき(『天元突破グレンガラン』『キルラキル』、絵コンテで湯浅政明(『マインド・ゲーム』『ピンポン THE ANIMATION』)参加と、実績とトレンドを兼ね備えた布陣で期待を煽ってきた本作。彼らの貢献は勿論(湯浅ロボパート最高)なのですが、初監督ながら長年「クレヨンしんちゃんシリーズ」に関わってきた高橋渉の監督としての手腕も光る。


ヒロシがロボットになってしまう。という結果に辿り着くまでがいい。改造される←怪しいマッサージ屋へ行く←ギックリ腰←しんのすけと合体←ロボット映画を観る、物語がSFに飛躍するまでの日常性の積み重ねのリズムが心地よい。ロボット登場後も、肝となるのはあくまで日常性であり、原恵一監督時代のクレしん映画の感触が蘇る。「休日にシネコンらしき映画館で、子供向けの映画を観るヒロシとしんのすけ親子」という、まるで今作が上映されている劇場をそのままトレースしたような画づくり。『クレヨンしんちゃん』のキャラクターにはすでに国民的スター性が備わっており、その日常の描写する演出は、不思議な強度を持ち合わせてしまう。もう、この国には寅さん(『男はつらいよ』も、スーさん(『釣りバカ日誌』)もいないけれども、ドラえもんクレヨンしんちゃんというプログラムピクチャーが健在である喜び。シンエイ動画に感謝である。


ほどほどの泣きと笑いを含みながら、なめらかなアクションと共に映画は進む。ロボとーちゃんと本物のとーちゃんが同時に画面に登場するあたりから、自我の分裂と自己承認といったようなテーマがチラチラと顔を出す。それらを「ピーマン」とか「腕相撲」などの伏線でわかりやすく回収していく。勿論、若干の物足りなさ、また、大ネタである「コロッケのロボ五木ひろし」というのが今の子供に通用するのだろうか、という疑問もありますが、見応えのある1本に仕上がっていた。