青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

水沢めぐみ『姫ちゃんのリボン』


改めて傑作!!突然、誘拐犯やヤクザに襲われたりする強引なドラマメイクも目につくが、「魔法の国」「変身」「タイムトラベル」などハラハラドキドキを量産するSFファンタジーの冒険奇譚。他愛のない恋物語には汚れは一切なくエバーグリーン。「阪神大震災」「オウム真理教事件」「酒鬼薔薇事件」発生前の90年代の美しい部分がパッケージされている。何でも話せるパートナー、友達以上恋人未満の異性の友人、素敵な先輩、部活動、修学旅行、自転車旅行etc・・・この作品には小学生時代の私の「憧れ」が全て詰まっているような気がする。水沢めぐみの描く丁寧で温かな線が、作品の空気と同調していいムードなのだ。そういった全ての要素が、主人公・野々原姫子がコンプレックスを克服し、

いけいけゴーゴージャーンプ!

と前進していく作品の構造に奉仕している。誰もが持ちうる"変身願望"と思春期の心の機微が合わさり、切なさを奏でる。元気一杯で男優りな姫子が、誰にでも姿を変える事のできる魔法のリボンを手に入れ、最初に変身するのが美人で優しくおしとやかな姉・愛子であるというシスターコンプレックス。その魔法のリボンを授けるのは、姫子と同じ顔をした、しかし、長く美しい髪の毛を持つエリカ(=理想の自分)。魔法のリボンの力で生命を得た親友ポコ太は、幼き頃から彼女の成長を見守り続けてきたぬいぐるみ。姫子のイマジナリーフレンドである。つまり、エリカやポコ太に相談する、励まされる、というのは「自分自身との対話」という構造を持っている。憧れの視線の切り替し(憧れていた姉も同じように姫子の明るさに憧れていた)、偶像からの脱却(アイドルであるクラスメイト聖結花との対立)、変身願望の充足(演劇部で主役ピーターパンを演じる)、誰かにとっての特別(大地との恋の成就)、などなどいくつかのドラマを経て、姫子は自分自身を再獲得していく。ちなみに、この「自分自身の再獲得」というテーマは、姫子が日比野さんへの変身から元に戻れなくなる、という『姫ちゃんのリボン』における最大のドラマでもって、表層的にも描かれている。自分自身を再獲得した後、最後に姫ちゃんが唱える魔法は

パラレル パラレル もっと素敵なあたしになーれ !!

なのだ。


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