青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

さくら学院公開授業『コントの授業〜目指せ!スーパーコメディエンヌ!〜』


さくら学院の公開授業『コントの授業〜目指せ!スーパーコメディエンヌ!〜』の1部を観てきました。講師は何とかもめんたる先生!「芸人がアイドルにコントを教える」というのは今までにもテレビなどで観た事がある構造で、その多くが予定調和とグタグダに終始していたのだけど、さすがさくら学院、さすがかもめんたる、実に刺激的な催しでありました。


かもめんたるが『キングオブコント2013』でのチャンピオンコント「白い靴下」を披露する所から始まった。「斎藤さんの家来」であるう大さんの不気味さにメンバーから悲鳴も。その後、メンバーをボケとツッコミに振り分ける。かもめんたるはメンバーのキャラクターを把握していないので、あるテストでその振り分けを行っていた。それは「動物園」というワードで思いつた動きをやらせる、というもので、曰く「このお題で猿をやる人がいたらその人は絶対ボケ」とかそういった類のものらしいです。そして、ボケとツッコミに分かれたメンバーが前述の「白い靴下」のコントを自分なりにアレンジして演じる。ちなみに、チーム分けの内訳は、飯田(ボケ)・杉崎(ツッコミ)の「巨体物」、磯野(ボケ)・佐藤(ツッコミ)の「天才児」、大賀(ボケ)・田口(ツッコミ)の「ぷにょぷにょ組」の3組。この際のかもめんたるのアドバイスを要約すると「身近にいる面白い人や街で見かけた人をデフォルメして演じてみる」「声色、身体性で特徴をつけ、出てきただけで観客にどういう人間かを理解させる」「面白い事を言うのでなくあくまでそのキャラクターが日常の延長で喋る」などなど。アイドル相手のやっつけ授業ではなく、養成所レベルの講義が展開されていた。


「喫茶店の店員と変なお客のやり取り」というシチュエーションでう大さんが穴埋めたコント台本を基に、3組がオリジナルコントを作成。制限時間は5分。穴埋めとは言え、5分やそこらで素人が面白いものを作れるはずがなく、相当グダグダな展開になるのでは、とヒヤヒヤしていたのですが、結果から言えば3組共にオリジナリティあるコントを展開していて、心の底から感心してしまった。「巨体物」は江戸時代からタイプスリップしてきた侍と店員のドタバタ劇。侍が喫茶店の店員に、呉服や玄米を要求するというズレが楽しいコント。「玄米は寂しいな。もっと江戸時代っぽいものあったでしょ」という、う大さんの指摘がガチ過ぎる。「天才児」は、サングラスを外すと気弱になるだとかいった複雑なキャラクター設定や伏線を張ったストーリー展開を要するコント。完成度が高い。しかし、ラストに芸人のギャグを引用した点を、う大さんにバッサリと斬られる。「あそこで笑う客は”それ”は”それ”だよ」という痛快な一言に痺れる。しかし、アイドル相手とは思えない的確かつ辛辣なアドバイスの数々。氏のコントへのストイックなまでの姿勢が感じられうれしくなってしまう。そんな中でもう大さんから最も高い評価を受けた「ぷにょぷにょ組」のコントはこうだ。奇妙な格好をした客が店に入ってくる。「何名様ですか?」と店員が尋ねると、「1人だけど、心の中にメルちゃんがいるから2名です」と不思議なトーンで何度も何度も繰り返して答える客。よく見るとその客はズラや眼鏡を2つずつかぶっている。おそらく自分と心の中にいるメルちゃんの分だ。怖い。このキャラクター設定の奥行きを短時間で作り上げてしまう凄味。それらを冷静に対処するツッコミ。その驚異的設定から展開していかない未完成なコントではあったが、狂気と日常の紙一重さ、フレーズの中毒性、ディティールの細かさと、荒削りながら見事にかもめんたるチルドレンのように思えた。う大さんも観ながら大喜び。大賀恐るべし。


なんでみんなこんなに対応能力があるのでしょう。メンバーのキャラクターや関係性がわからないかもめんたるをフォローする森ハヤシ先生のアシストも見事。そして、瞬時に寧々どんとのプロセス的構図を嗅ぎ取り、対立軸を作り上げるう大さん!こういう勘のよさというか反射神経みたいなものこそ、お金を払って観たい「芸」だ。かもめんたる早稲田大学のお笑いサークルから発足したコントグループWAGEの出身。そして、さくら学院の担任を務める森ハヤシ先生はそのWAGEの元リーダー。今回の公開授業はお笑いファンにとっては夢の共演なのだ(ちなみに残りのWAGEメンバーは小島よしおと手賀沼ジュンである)。登場するやいなや珍しく観客を煽る森ハヤシ先生。「今日はね、ちょっといい所見せたいんですよ」と照れる。こういう観客にどう見せたいかのリードが絶妙に巧いのだ。さくら学院かもめんたるの邂逅に対して「学生時代の友達と社会人になってからの友達を引き合わせるみたいで緊張した」と言ってたのも凄くよかったな。ラスト、槙尾さんと森先生がWAGEとさくら学院をなぞらえた言葉を贈っていたのにもグッときた。途中で諦めてしまったけど一度同じ夢を追いかけたメンバーというのは大切に財産になる。助けてもらえるし、助けたくなる基地みたいなものだ、と。そういえば、かもめんたるの始まりから終わりまで徹底して世界観にこだわりぬいた単独公演『メマトイとユスリカ』のエンディング曲が聞いた事もないシンガーソングライターの何てことない楽曲で締められていたのが不思議だったのだけど、それが元WAGEの「手賀沼ジュン」の歌であると知り、感動したのでした。