青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『爆笑問題のハッピー・タイム歳時記』



爆笑問題が1998年にリリースしたギャグCD『爆笑問題のハッピー・タイム歳時記』を聞いた。爆笑問題結成10年目、前年にあの名作『爆笑問題の日本原論

爆笑問題の日本原論

爆笑問題の日本原論

を大ヒットさせ、脂の乗り切ったいた時期の作品。参加メンバーはキリングセンス、GO・JO、たくみふぢお、ガンス、アバラシカetc・・・とほとんど現存しない芸人ばかりで泣ける。しかし、これが実に才気走った1枚なのだ。四季のある国、日本の1月から12月までを12トラックで収録したタイタン版『ナイアガラカレンダー』(大瀧詠一)である。1月「初魂」はこんな感じで始まる。

ヒロシ(田中)「晴れたれば!」
母「あら、ヒロシ、早起きね。晴れたれば鮮やかれ」
ヒ「鮮やかれ。ヨイショ、おっ玉子。正月って感じだねぇ」
母「ダメよ。それはお父さんが茹でたんだから」
ヒ「父ちゃん!?もう煮えたの?」
母「ええ、もう。お父さんはそういう所、キチンとした人ですから。今、寝室で薬塗ってるわよ」
父(太田)登場。
父「いやーいい煮え加減だったなぁ。久々に煮え死んだね」
母「いやだわ、お父さんったらそんなに大きな声で。ヒロシ、熱風呂は?」
ヒ「何言ってんだい!だっせぇな。今時入んねぇんだ、熱風呂なんか」
母「何て言い方なの、ヒロシ!ちゃんと煮えて、死んで、生き返ってこそ新年でしょ」
ヒ「うるせぇな。古いんだよ!縁起ばかりかつぎやがって。いいから玉子よこせよ!」


おわかり頂けるだろうか。つまり、これはこの国の四季、それに伴う季語や行事をデタラメに創造し、それらを語り、歌い、演じ切るギャグCDなのだ。太田光の物語の語り手としての資質がすでにここで垣間見ることができる。そして、そのナンセンスな発想の自由さ、落語的な侘び錆び。また、田中裕二の演じ手としての才能も堪能できる1枚であろう。そして、おおひなたごう(当時タイタン所属)が参加している点も見逃せない。例えば、7月の「凧月」にはかなり、おおひなたごうが貢献しているのではないだろかと推測される。

実況「今年のプロシャープボール、サマーシーズンの首位攻防戦は伝統の一戦となりました。中臣ウィングスVS童心クラークス戦。現在、第4ピリオド後半を終えて、3.5対2.6でウィングスが0.9バリューのリードです」

解説「ただねぇ、これ0・9バリューというのはクランプ1発出て、チューブが2回まわれば逆転できる差ですからね。今日のウィングスのディフェンス陣はコウノトリ型できてますから、これはかえって災いするかもしれませんねぇ」

実況「なるほど」

おおひなたごうファンの方であればピンとくるだろう。これは『おやつ』において、おおひなたごうが異様なまでの熱意と話数を割いて描いた「パワーホライズン」の原型のようではないか。

でっち上げたデタラメは細部の細部までこだわり抜く事で、その面白さは増していく。CD全編に言えることだが、非日常の言葉(というか聞いた事もない言葉)が当たり前の日常として奏でられていく様がとにかく面白い。


圧巻は11月「酒月」の収められている、爆笑問題扮する”マッチライター”という漫才師による漫才だろうか。

田中「最近はねぇ、メゾットがはやってますねぇ」
太田「凄いですねぇ」
田中「電気屋さんの前に長蛇の列が出来たりしてね」
太田「この間なんか本物の蛇が並んでましたからね」
田中「そんな訳ねぇだろ!そこはソマイ大陸か!お前は。他に人気があると言えば。テレビドラマの『すごしやすい季節』ね」
太田「凄いですねぇ」
田中「視聴率が、60%超えたらしいですからね」
太田「60%ってのは凄いですからねぇ。他に60%超えたドラマと言えば『リッカーの午後』くらいですからね」
田中「最悪だよ!ゴールデンなのに視聴率3%もいかなかった最悪のドラマじゃねぇか!」
太田「私は好きだったんですけどねぇ。主役のパリード・デスターね」
田中「そんな奴出てないよ!それ、プロアスダットの覆面リブラーじゃねぇか!」
太田「まぁ、私は好きなんですけどね」
田中「今、関係ねぇじゃねぇか!『すごしやすい季節』の話!」
太田「また主役の岡陽一が格好いいんですよ、これがね。決め台詞があって」
田中「そうそうそう。そうなんだよね」
太田「『俺達パライモー』なんつって」
田中「またアスダットじゃねぇか!それは樋口監督の現役時代の名台詞だろ!岡陽一の決め台詞は『俺とお前はカイザロ」!』
太田「あ、そうでしたっけ?」
田中「そうですよ。それでねぇ、『カイザロ族』なんていうねぇ、流行語まで出来たんだから」
太田「あぁ、神田の西口によくいるやつね」
田中「それはハイモノじゃねぇかよ!俺が言ってるのはカイザロ族!みんなお揃いのマサロくわえてる若者達いるでしょ」


とまぁ、こういうのが続いていくわけである。いつもの爆笑問題の時事漫才を分解して再構築しているわけだけど、聞きなれない言葉が呪術的に耳にまとわりついて、下手したらいつもの漫才より面白い。メタ漫才的なものを爆笑問題は15年以上前にとっくにやりきっていたのだ。


この他に若者が壁にペンキを塗りたぐる「カーペンターズデイ」についての2月や、働くことも勉強することも禁じされる6月(『ドラえもん』の「ぐうたら感謝の日」を彷彿!)など、センスの冴え渡ったトラックばかり。中古屋で見つけたらぜひゲットして頂きたい。