青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

高野文子『しきぶとんさんかけぶとんさんまくらさん』

2010年に福音館書店の雑誌として刊行された高野文子による絵本『しきぶとんさんかけぶとんさんまくらさん』がこの度、ハードカバーで再版された。高野文子は「神」とイコールで結んで差しつかえのない作家でありますので、絵本に造詣のない私ですが迷わず購入。



そういえば、小さな頃って夜眠るのがとても怖かったな、と思い出す。恐怖に飲み込まれそうになった時は「家族や友だち、ウルトラマン仮面ライダーに囲まれて守られている」というイメージを頭の中に抱いて対抗していたのをよく覚えている。「包み込まれる」イメージ。この絵本でも、1人の男の子が眠る前、自分を包み込む寝具にお祈りをする。心配事が起こらないように。お漏らしをしませんように、手足が冷えませんように、怖い夢を見ませんように。

しきぶとんさん
かけぶとんさん
まくらさん
あさまで よろしくおねがいいたします
あれこれ いろいろ たのみます

すると、どうでしょう。男前なしきぶとんさん、かけぶとさん、まくらさんは「まかせろ まかせろ おれにまかせろ」と身体を包みこみながら応えてくれます。



リズミカルな韻がかわいくて優しいのだ。心地いいリズムで睡眠を誘う効果も狙っているのかしら。構図やカラーリングによる視線の誘導も凄いテクニックなのですが、これを論理的に説明するのはちょっと難しい。とにかく絵にも言葉にもリズムがある。布団という1つの存在として描くのでなく「敷布団」「掛け布団」「枕」と3者として表現したのが巧い。子供達は「自分が複数の存在に包まれ守られているのだ」という感覚を潜在的に抱くんじゃないかなー。それにこんな風に生命なきものと対話できる「想像力」というのに幼い頃から触れておくことはとても大切。きっとそれが人生をやりぬく為のコツになるはず。大変、素敵な絵本でございます。