青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

東村アキコ『かくかくしかじか』


東村アキコの自伝漫画『かくかくしかじか』が面白い。1巻の段階では正直な所、少ししらけていた。現代の『まんが道』は福満しげゆきの『僕の小規模な失敗』で充分だし、『NANA』や『世界の中心で愛を叫ぶ』のヒットで一気にはやった回想形式(「先生、私はまだもがいてる途中だよ いつまでたってもあの時のままだよ」的なやつです)も東村アキコともあろう御方が今更何故!?という感じだったのだ。あまりこのブログで書いた事がなかったが、実は私の東村アキコへの信頼は非常に厚い。私の実家は家中で東村アキコに心酔しており、『きせかえユカちゃん

の単行本巻末で連載されていた「健一レジェンド Kenichi伝説」からのファンである。私にとって東村アキコは「自意識」を扱わせたら右に出るもののいないギャグ漫画家であり、今更『NANA』方式を持ち出すだなんていう恥じるべき行為を許せる作家ではなかったのである。であるからして、1巻の段階では「これは壮大な前フリなのではないか」「パロディなのではないか」という邪推がノイズとなっていたのですが、2巻と3巻と読み進めるにつれ、その考えは改められた。東村アキコはかくもリリカルな作家であったのか。随所にスピード感のあるギャグが挿入されていはるのだけども、全体的な印象はとにかくセンチメンタル。”喪失”と”後悔”のフィーリングが太陽や海や空や風や雪に溶け込み、青春を回顧する際につきまとうそれらを普遍的な感情として昇華している。3巻で何度も印象的に挿入される先生の家の前の道路。その「止まれ」の標識が痛ましい祈りとして響いてくる。

「ずっと着続けたマウンテンパーカー」だとか「学校帰りの王将」だとか「大雪の日のかまくら」だとか散りばめられたアイテムや設定も抜群に巧い。この叙情とギャグのバランスは『まんが道』というよりはさくらももこの初期のエッセイ短編(『ちびまる子ちゃん』の単行本の巻末に収録されている)のような味わいが近い。以前『モーニング』誌で連絡していた『ひまわりっ健一レジェンド〜』(フィクションを存分に敷き詰めた大学卒業後の自伝的ギャグ漫画)
ひまわりっ ~健一レジェンド~(1) (モーニング KC)

ひまわりっ ~健一レジェンド~(1) (モーニング KC)

よりも面白いんじゃないかしら。「真実は小説より奇なり」なのか、はたまた東村アキコの筆致の進化か。3巻社会人編はその『ひわまりっ』とのリンクも多く見られ、東村ファンにはうれしい。そして、やはり自意識の扱い方も抜群。これはもう若者必読の書と言っていいのでは。

私はこれを読んでいる若人達に声を大にして言いたい!!
人は!!もうどうしようもなく疲れた状態の時にこそ!!
ストレスで極限まで追い詰められて
肉体的にも精神的にも追い詰められた時にこそ!!
夢への第一歩を踏み出すことができるのだ!!

という東村先生からのパンチラインじみたメッセージもあるぞ。とにもかくにもオススメの漫画でございます。

かくかくしかじか 1

かくかくしかじか 1

かくかくしかじか 2

かくかくしかじか 2