青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

The Pastels『Slow Summits』

Slow Summits

Slow Summits

昨年16年ぶりにリリースされたThe Pastelsの5枚目のアルバム『Slow Summits』をよく聞いていて、今更ながらこれは2013年ベスト級のアルバムではないかしらなんて思っている。グラスゴーのアノラックとシカゴ音響の幸福な融合。ギターポップを基盤にしながら、ストリングスや管楽器や鍵盤が蕩けるような音色で混じり合ったスローミュージックだ。ヘロヘロなギターの音色もとてもいい。ギターサウンドに胸昂ぶったり、切なくなったりするなんて事って本当に久しぶりだな。数曲で担当しているジョン・マッケンタイアのタイトなドラムと他の誰かが叩いたヨレヨレのドラムどちらも愛おしい。そしてそれらのサウンドの全てが「うた」に奉仕しているようである。「After Image」「Slow Summits」といったインストナンバー(最高)においても「うた」が聴こえてくる。思い出されるのはやはり日本の盟友テニスコーツ、もしくは空気公団の音楽を聞いていても感じるそれにも近い感触も持っているように思う。色々なものを通過して超越したかのようなポップミュージック。

雨が降っている ヨーロッパの街角に
外に車を止めて 目立たずに
僕の部屋に明かりが灯る
部屋からは景色が見える
でも何でもない、急いで
雨は時間の中にも外にも降っている
ゆっくりとネオンサインをくぐって
君がここにいればいいのに


「Secret Music」

歌詞も素晴らしい。全編に渡って見事なカメラのアングルがある。景色の抜群の切り取り方で、時間の流れが1曲の中に濃縮されている。このアルバムを聞いていると、スローモーションに時間が流れ、全ての事がはっきりと見えるような気分になるのだな。




初期のアルバムを聞き返した後に、このアルバムを改めて聞き直し、再び感動してしまう。30年以上のキャリアを経た『Slow Summits』においても、The Pastelsの音楽が昔と変わらずに揺らぎ続けている。音像は端正に研ぎ澄まされているが、あの愛くるしいヘロヘロさ加減は残り続けている。その事が何よりも素晴らしい。日本の若いインディーバンドのグルーヴの揺らぎのようなものを個人的にこよなく愛しているのだけど、「この感じ(輝き)はいつまで続くものなのだろう?」と勝手ながら不安に感じる事もある。そんな杞憂に海の向こうからThe Pastelsが正解というか一つの道しるべを見せてくれた感じ。バンドのグルーヴは揺れ続けたまま進化している。定まらなくても前には進めるのだ。