青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

Homecomings『Somehow,Somewhere』

 

Somehow, Somewhere

Somehow, Somewhere

 

彼女達のファーストアルバムに用意していた「青(蒼)」の形容詞を誰もが引っ込める事になるだろう。 アルバムは、ジャングリーなギターロック然としての疾走感は鳴りを潜め、少し腰を落としたBPMの楽曲がその大半を占めている。


Homecomings "GREAT ESCAPE"(Official Music Video) - YouTube

目的地があるわけではないのだけど、それでもちょっと足早に歩く。そんなフィーリングにぴったりのこのテンポの理由は、メンバー福富氏の寄せた、にぎやかで愛らしい筆致のセルフライナーノーツに記されている。「夜の寂しい感じに魅かれる」とある。夜になると現れる正体不明の喪失感。何を失ったわけでもないのに、訪れる容赦のない孤独。しかし、まぁ生きるというのはそういう事で進んでいくしかないのです。この『Somehow,Somewhere』というアルバムはそんな夜の”黒“を歩く為の音楽だ。

 悲しい歌詞にはとびきり明るい曲を、明るい歌詞には悲しい曲をつけるんだ

エルビス・コステロが言っていた、なんて昔どこかの雑誌で読んだ気がするけども、まさにHomecomingsの音楽も寂しさを底に湛えながらも、とびきりのメロディーとハーモニーで楽曲を彩る。そうそう、彼女たちは非常に優れたコーラスグループでもあるのだ。リズム隊の女子2人はそのタイトな演奏もさることながら、色を添える歌声においても今作への貢献は非常に大きい。ボーカルの素晴らしさについてはこれまで何度も書いてきているので、割愛するが、1つ言及するのであれば英語の発音。賛否の分かれる所だと思うのですが、おそらく正しく発音する事を完全に放棄した何とも言えない響きは、まるで独自の言語(理解される事を拒む捻じれたブルー)のようで、これはこれで非常に正しい。メロディーに少し遅れているように聞こえる不思議な”なまり”がたまらなく魅力的ではありませんか。メロディーの充実、その普遍性にも驚かされた。本人達も明言する通り、彼らの音楽の源流には「クリスマスソング」というのが多分にあって、あの否が応でもワクワクしてしまうキラメキが見事にパッケージされているのだ。そういえば、クリスマスソングにはそのキラメキと同時に、たった2日間しか流されない、という寂しさがありますね。どうかHomecomingsの音楽が寂しい町に鳴り響きますように。今年のクリスマスは都会でも雪が観測されたらしい。永遠に続くかと思われた”青”を覆った夜の”黒”、そんな夜道に積もる”白”を想います。名盤です。