青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

山下敦弘『超能力研究部の3人』

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怪作だ。山下敦弘が監督、乃木坂46が主演、大橋裕之傑作短編集『シティライツ』

シティライツ(1) (モーニング KC)

シティライツ(1) (モーニング KC)

の1編を原作。この情報と『リンダリンダリンダ』『天然コケッコー』という山下敦弘フィルモグラフィーから、少し冴えない青春アイドルムービーが始まる、観客の誰もがそんな期待を寄せる中、上映が始まるやいなや、また誰もが違和感を覚えるだろう。この『超能力研究部の3人』は山下敦弘の前述の側面と、『不詳の人』『道(子宮で映画を撮る女)』などの傑作フェイクドキュメンタリーをモノにした手腕が組み合わさり生まれた、奇妙に捻じれた新しい映像体験なのだ。とは言え、これはなかなか鑑賞のハードルが高く、興行的にはコケる予感に溢れている。安易にオススメもできない。しかし、この山下監督の挑戦に「おかえりなさい!」と敬礼を掲げたい気持ちであります。


いまおかしんじにより脚本が執筆されたという劇作としての『超能力研究部の3人』のパートは仮セットで撮影されたリハーサル映像が断片的に使用されており、うっすらと本作に物語の色を付ける。メインとして尺を取るのは、『超能力研究部の3人』という映画のメイキング映像にあたる部分。これを丸ごとフェイクで作り上げている。撮影スタッフ陣すらわざわざ役者が演じ直している徹底ぶりだ。監督・山下敦弘の(おそらく実際とは全く違うであろう)厳し目の演出指導や、乃木坂マネージャー陣との確執(お馴染みの舟木テツヲ登場)、異常ファンの乱入、橋本奈々未のスタッフへの恋心(あの嘘みたいな嘘の雨)、生田絵梨花秋元真夏のケンカ、などなど活き活きと遊びまくっている。ここらへんを観るに明らかに”フェイク”なのだけど、ふとした瞬間、例えば生田が自身の器用さゆえの凡庸さを吐露して見せる涙、橋本が海辺で見せる儚さ、そういった”本当らしいもの”が映り込むと、境界が揺らいでいく。リアルとフェイクが混じり合う。そもそも彼女達自身がアイドルという虚構を演じる存在で、その彼女達が女優として自分自身を演じているのだ。一体、何重の螺旋が巻かれているのかさえかもよくわからない。しかし、その揺さぶりが妙に心地よい。混沌とした画面の中から彼女達の姿が妙な”確かさ”と説得力を持って瞳に訴えかけてくる。そして、浮かび上がってくるのは、協力し合いながら山の頂上に向けて進む3人の少女の身体(推せる真夏の足首!)
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そして、「UFO来ないかなぁ」と漠然と待ち続ける普遍的な青春だ。"超能力"という不確かだけども強大な力、がこの映画を司る言葉としてふさわしいように思えた。