青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

宮藤官九郎『ごめんね青春!』9話

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ここに来ての最高傑作回。何はなくとも満島ひかりである。あんな演技ができる人が他にいるだろうか。身体や声の振動、つっかかりや歪さでグルーヴしている。これまでノイズとされていたものがポピュラーになっていく瞬間というか、「満島ひかり以降」という言葉は確実に生まれるのだ。恋心と共に徐々に色づき、真っ赤に燃えだした独創的な衣装も素晴らしい。


宮藤官九郎の脚本も今までになくエモーションだ。これまで思わぬ形で人々の想いを繋げてきたラジオ番組『カバヤキ三太郎のごめんね青春!』が、9話においては平太(風間杜夫)の亡き妻(森下愛子)への届くはずのない”ごめんね”を、届けてしまう。「”想い”というのはどんな形であれ必ず伝わる」という宮藤官九郎の創作上の信念(その点においては坂元裕二宮藤官九郎はさほど遠くない場所にいると言える)はこれまでの作品と同様に生死の境をやすやす越えて届く。『ごめんね青春!』がこれまで以上に一歩踏み込んでいるのは、「どんな形であれ」の負の面も描いている点だろう。それは、あの放火事件だ。サトシ(永山絢斗)と佑子(波瑠)の恋路に対する負の感情から、届くはずはないと思いつつも、飛ばさずにはいられなかったあの“花火”は、思いもよらぬ形で、辿り着いてしまう。「放火事件の真犯人」という重たい罪と秘密を抱えながら生きる平助に対して抱いてしまうこのシンパシーは何だろう。それは、私達が生きていく中で奥底に感じている”うしろめたさ”のようなものを体現する人物だからではないだろうか。宗教用語で言えば、”原罪”というやつだろう。『ごめんね青春!』というドラマは、この原罪に対する懺悔と救済の物語だ。


カバヤキ三太郎のごめんね青春!』は、ドラマの序盤にも登場していたキリスト教における「告解室」の役割を果たしているのだろう。あの重苦しい「告解室」を、目には見えない、しかし、ピタっとチャンネルが合わさった人々には確かに繋がる”想い”が降り注いでいくラジオというメディアに託してしまう。”照れ”と“ロマン”のせめぎ合う、THIS IS クドカンな手法である。9話における平太が語る妻。

「あ~ 面白かった」って。それが最期の言葉なんですよ。何のこと言ったか分かりませんよ。人生のことかもしんない。結婚生活のことかもしんない。昨夜のさまぁ~ずのことかもしんないし。


でも、30年連れ添った女房が「あ~面白かった」って言って死んだら最高じゃない。泣いちゃいけないような気がして。そうだろ?カバさん。


「幸せだった」とか「楽しかった」じゃなくて「面白かった」んだって。これ以上望むことなんてないじゃない。

死ぬ間際にこんな風に他人の人生を肯定してくれる母ちゃんは、それはもう観音菩薩(救世菩薩とも呼ばれる)に他ならず、そんな観音菩薩がナレーションを務めているという点も、『ごめんね青春!』が肯定と救済の物語である証左となりましょう。忘れてはならないのはビルケンシュトック京子(トリンドル怜奈)の存在。

お前さんはそんなに悪い奴じゃないよ

アタイにとってコスメはコスメだよ!みんなお前さんのこと好きだよ、だから元気出せ

などなど直球の肯定を回の都度繰り返していく彼女は、その麗しい姿も相まってもう天使さながらなのだ!そして、何よりの肯定はやはりシスターであるリサ(満島ひかり)によってなされる。平助が9話にして、ついに前述の”罪“をリサに懺悔する。しかも、まさかの「罪の告白」と「愛の告白」のダブルミーニング。上手くいくはずがない、下手したら絶縁されてもおかしくもない告白。しかし、それは許されてしまう、届いてしまう。

私は知っています。私達が運命で結ばれているからです。
だから、そこら辺の男女みたいにつきあって別れて乗りかえて、より戻して
なんてことしなくていいんです。
たとえ煮え切らない男でも、タレ目でもタレカッパでも、放火魔でも・・・許しませんけど。それも全て試練です。今は許しませんけど、乗り越えましょう。

神様はいると思った!という感じの宗教レベルの全肯定が、コメディドラマで描かれた。台詞を引用してみたものの、この屋上での告白のシーンは、もう言葉が追いつかないというか、満島ひかりの表情、身体の一挙手一投足を感じるしかない。今世紀最大級の肯定がブラウン管で拝めるのだ。未見の方は再放送なり、ネットなりをつかって、2週間後の最終回に向けて、備える事をオススメします。


ちなみに、満島ひかりの演技に立ち向かった錦戸亮も実に素晴らしい。今年度公開された塩田明彦の傑作『抱きしめたい -真実の物語-』でも感じたのだけど、彼の受けの演技は目を見張るものがある。心地さ良さというのがある。『ごめんね青春!』で好感をもたれた方はぜひとも『抱きしめたい -真実の物語-』もチェックして頂きたい。