青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

どついたるねん『BEST HITS』

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どついたるねんはいつでも最高の存在です。圧倒的なライブパフォーマンスに加えて、毎日UPされていた動画(垂れ流しのユースト放送ではなく、編集された”作品”であった事が重要だ)、小学校の時の友達がそのまま身体だけ大きくなった感じとか、”陽気なカツカレーTシャツ”というヒットアイテムにセレクトショップBEAMSのカタログモデル抜擢、気鋭の写真家らによるフォトブックの発売などなど、その活動は多方面に渡り、現代のカルチャー界の若きヒーローといった風情も漂っている次第です。今、どついたるねんを「好き」と表明するのは最高にヒップな行為になっている感すらあります。しかし、こと音源に関しては、突然ラップアルバムをゲリラ的にリリース(『ドツノポリスBEST』最高)、3rdアルバム以降99曲入りだとか198曲入りだとか3ヶ月連続アルバムリリースだとか、果ての6thアルバム『grandmother's milk』はフィールドレコーディングで6008曲入り、と華麗なるスカムぶりを発揮しており、追いかけるのが難しいレベルに達。だが、ご安心。乱れ打たれた音源の大量のクズ曲に渾然と輝くクズ曲があって、それらを掻き集めて、かの銀杏BOYZ峯田和伸の指導の元に、録り直したのがこの『BEST HITS』なわけです。1曲目を再生した瞬間、これまでの音源と比べると明らかに質の高い音の鳴りに驚いてしまうわけで、どついたるねんのスカムバンド性を愛するファンからは賛否が分かれそうな所ではありますが、いやはや、これは名盤であります。1曲目の「遠浅の部屋」いきなり涙腺にきた。ライブで聞いた時は全くいいと思えなかったこのJ-POPのクリシェだけで成り立ったようなワトソン歌い上げナンバー、こんなに素晴らしい歌詞だったとは。「もしも きみが結婚したらどうしよう」という悲惨な妄想の果てに飛び出す

納豆オムレツ おれはそんなにおいしいと思えない
女の子にわかってたまるか

というラインに涙しない男の子なんて信用できないよ、絶対!というかこの込み入った感情を”納豆オムレツ”という単語に託せてしまうリリックメイカーっぷりよ。
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「スーパーバイザーに峯田和伸」というのは単なる話題作りにあらず。特典のDVDを観る限りではレコーディングからミックスまで居合わせ、歌唱方にまで細かく指示を出していた。そういった先入観を抜きにしても、このアルバムを聞いていると、まるで銀杏BOYZの沈黙の9年間のアウトテイク集を耳にしてしまったかのような錯覚に陥る。「遠浅の部屋」「ポコロンチャ」「Just like まじっすか?」「静かなるドン」といった楽曲は、確実に何かが欠けているものの、彼らの不在を埋めてくれる銀杏BOYZチルドレンとしての名曲だ。ORE山ちゃんJONES(タイガー山村)の歌唱が完全に峯田チルドレンなのも泣けるのだな。勿論、どついたるねんの参照点は銀杏BOYZだけではない。THE BASS(ベースマン木本)のプレイが炸裂するファンクチューン「ジェロニモFUNK」「グリーンマン」の雛型は完全に岡村靖幸もしくは電気グルーヴだったりするし、ワトソン(たもつ)のボーカルスタイルや作詞には筋肉少女帯ひいてはナゴムレーベル(というか人生)が透けて見えてくる。とにかく、音楽面はさておき、どついたるねんのユーモアセンス、言語感覚、身体性は現在進行形でキレキレなわけであって、前述のレジェンド達が成し得たバカバカしい偉業をリアルタイムで追体験させてくれる貴重な存在なのだ。ここまで読んでみて「眉つばだなぁ」と思われた方は、とりあえず今作にも収録されている「カズダンス」「MY BEST FREINDS」「このまま黙ってると思うなよ」「鳥貴族」といった”THII IS どついたるねん”な代表曲を聞いて頂ければ、彼らの特別性をすぐにお分かり頂けるのではないでしょうか。



特典の4時間越えのDVDを観ていても、とにかくどついたるねんの面々は常に楽しそうなわけなんだけど、明らかに刹那的だ。それでも、“おれの友達おもしろいっしょ”とか””世界の終わりきても2、3人のみ笑わせたい“といった精神で突き進む彼を観ていると、画面に映るにはくだらない事象であるにも関わらず涙腺が緩んでくる。アルバムのラストに収録されたクソ名曲なヒップホップマナーの「such a sweat lady」

昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました
おじいさんは山に芝刈りに おばあさんはおれだ たもつだYO!

というあまりに完璧な掴みに惑わされるが、その後にワトソン(たもつ)はこう綴っている。

みんなノッてるかい(YEHA)みんなヤッてるかい(YEHA)
人間いつ死ぬかわかりません はいっチーズ

諦念の元に、若さを燃やし尽くさんばかりの勢いで、駆け抜けるどついたるん。「はいっチーズ」を合言葉に輝かしい瞬間を捉えよう。「such a sweat lady」のメロウなフックが聞こえてくる。

最高はいまじゃない?