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ロロ×後藤まりこ『ロミオとジュリエットのこどもたち』

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三浦直之の、ロロのこれまでの集大成!本公演は休憩ありの3部構成。1部はシェイクスピアロミオとジュリエット』のコア部分だけを編集して倍速で上演。2部は古今東西の数多のラブストーリー、例えば『東京ラブストーリー』『金色夜叉』『トリスタンとイゾルテ』『タイタニック』『アラジン』『リトルマーメイド』『崖の上のポニョ』『タッチ』『うる星やつら』といった物語の“ボーイミーツガール”の断片をカットアップして『ロミオとジュリエット』を再現する。そして、3部は三浦直之のオリジナルの新作として『ロミオとジュリエットのこどもたち』が上演されるという構成だ。


1部が終わった段階では正直ウンザリしていた。舞踏会のダンスシーン(島田桃子先生のダンス!)や独創的な衣装や小道具など、それなりに楽しめる箇所もあったのだけど、シェイクスピアのただでさえ長い台詞を、速いスピードで演じているので、やかましく、聞きとりづらい。かなりラフに演出しているので、登場人物の心情もさっぱり理解できないのだ。この段階では、こうする事によってあえて『ロミオとジュリエット』という作品を刑骸化する、という意図に気付かなかったのです。確かに登場人物が、何を考えていて、どんな言葉を発しているのかいまいちわかりかねるのだけど、誰が誰を“好き”とか“嫌い”といった感情だけははっきりと感じられた。そして、そういった"感情"を見つめ、記録するDJ(島田桃子)が舞台の脇にそっと佇んでいる。彼女がレコードをスクラッチすると、ロミオ(亀島一徳)とジュリエット(後藤まりこ)の出会いのシーンが何度も反復再生される。2部ではラブストーリーのカットアップがあり、そして今劇の音楽を担当しているのは、ブレイクビーツユニットとしてそのキャリアを出発した口ロロ三浦康嗣である。つまり、この『ロミオとジュリエットのこどもたち』という作品はヒップホップマナーに則って作られている作品なのだ。3部では、転生した『ロミオとジュリエット』の登場人物たちが、記録(レコード)されたラブストーリーを必死に探し求めているシーンから始まる。そして、前述のDJが古今東西のラブストーリーの主題歌(「ラブストーリーは突然に」「ラムのラブソング」「My Heart Will Go On」など有名曲ばかりだ)のメロディーをカットアップ&スクラッチして、新しいリズムを生み出していく。過去の音源を組み合わせる事で、1つの全く新しい音楽が生まれる。そして、それは過去のあるゆるラブストーリーの”好き”を採集する試みでもある。そんなラブストーリーの1つである『東京ラブストーリー』(脚本は坂元裕二だ!)にこんな台詞がある。

人が人を好きになった瞬間って、ずーっとずーっと残っていくものだよ。それだけが生きてく勇気になる。暗い夜道を照らす懐中電灯になるんだよ

ロロのこれまでの作品は、この台詞を実行するかのように、1度誰かに向けて生まれた気持ちは消えないし、古びないし、何度だって転生してまた誰かに辿り着く、そんな信念で作られているように思う。3部はその信念の実演、つまりロロの集大成なのである。そして、三浦直之の作品の素晴らしさは、”ラブストーリー”に登場する事すらできなかった人々の報われなかった、言葉として発される事のなかった”好き”という気持ちをも平等に舞台上に上げてくれる点にあると思う。ロロ作品において、常にその役割を体現していた望月綾乃が今作でも、ロミオがジュリエットと出会う前に恋焦がれていたロザライン役として、ヒロインになれなかった人物の”好き”の切なさと美しさを表現していた。転生の果てに、姿も声もロミオに認識してもらえなくなる。そんな彼女の存在を唯一ロミオに伝える事ができるのが足音、つまり”音”であるというのも上手い。更に、マキューシオ(篠崎大吾)からロミオ、乳母(伊東沙保)からジュリエット、といった身分や性差を越えた”好き”さえも、三浦は超解釈で拾い上げる。乳母の

あらゆる関係性において、あなたの事を愛していますよ

というあの独白の素晴らしさはどうだろう。伊東沙保("隊長"役も最高)の声色も完璧。そして、まるで大島弓子の世界のような、あらゆる境界を越えた場所に、連れていかれるような筆致。島田桃子、伊東沙保といったロロ常連組、そしてロロメンバーの今作における素晴らしさ。三浦脚本を身体に落とし込むレベルが、数段違った(勿論、北村恵の”鳩ジョーク”も最高でしたけど)。あの人達の声はなんであんなにも響いてくるのだろう。


3部はそのラストに向けて急激に舵を取る。前述のDJが生み出した新たなビートとメロディーを手に入れた音楽を、かつてのラブストーリーの死体達が、歌いながら足場を積み立てていく。ロミオがジュリエットのいる高い場所に登っていく為の足場だ。つまり、かつて存在した全てのラブストーリーに感謝を述べながら、シェイクスピアの『ロミオがジュリエット』と三浦直之の『ロミオがジュリエットのこどもたち』が接続する。そして、今作が、次のラブストーリーに繋がりますように。そんな祈りが、聞こえてくる。大傑作。大きな舞台でロロを観られた事に感謝です。