青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

cero『Yellow Magus』

Yellow Magus(DVD付)

Yellow Magus(DVD付)

なかなかに驚きの1枚だ。サウンドはライブにおける「exotic penguin night」や「わたしのすがた」が小沢健二の『Eclectic』(2002)
Eclectic

Eclectic

を彷彿とさせるアレンジで披露されていた事からも予見できたが、和洋折衷されたブラックミュージックに変貌を遂げている。ヨーロッパとアフリカを組み合わせ独自の進化を遂げたミナス音楽とのリンクも感じさせたりもするのだけど*1、屈強なリズム隊、サックス、トランペットなどの管楽器が官能的に絡み合う上で日本語が飛び跳ねるそのサウンドにはSMAPが錚々たるセッションプレイヤーと作り上げた『SMAP 007〜Gold Singer〜』(1995)
SMAP 007

SMAP 007

のソウルファンク歌謡を想ってしまう。誰が呼んだか「インディー界のSMAPceroはアイドルチームが豊潤な資金で作り上げたあの幸福な時間を、仲間達と共に等身大に作り上げようとしている。やはり友人であるvideotapemusicが作成したミュージックビデオも素晴らしいではないか。

「Yellow Magus」の圧倒的な名曲ぶりよ。歌う事とは語る事だったのだ、と想わせてくれる高城晶平のボーカルも素晴らしい。*2ポップさを保ちながら、ブラックミュージックで日本語を躍動させ、かつ物語を紡ぐという驚異的なソングライティングを披露している高城・荒内のコンビには未来しかない。とは言えこれまでceroに漂っていた「親密さ」のようなものは確実に薄れているように思う。生活感漂うメンバーの親しみやすい人格が消滅し、語り部に徹している為だろうか。メロディーはよりプログレッシブな方向に針路を取っているし、リズムもやはりミナス周辺を想わせる複雑さ、気を抜けばすぐに振り落とされてしまう。いや、振り落とされるも何も、『MY LOST CITY』において我々を乗せた船自体が今シングルにおいては破壊されてしまった。まるで、それぞれの足で進め、付いて来い、と言っているようだ。


歌詞においても2曲目「我が名はスカラベ」では他者の糞を集め食料とするフンコロガシが題材に取り上げてられ、3曲目「ship scrapper」では、「かつて夢や恋乗せた海の幻を 喰いものに 喰いものに 変えちまえ!!」と歌う船舶解体師についてのナンバーだ。これは

夜盗のように僕らは遊ぶ


cero「あののか」

ではないが、過去の遺産からの引用のセンスばかり称えられてきた自身をどこか自虐的に言及しているように思う。しかし、曲の終盤においてはスカラべはその足元そのもの(星)を転がす事に辿り着き、解体師は船で拾ったナイフで新しい景色を切り取っている。やっぱり前しか向いていない。「8points」はかなり昔からのレパートリーのはずが、レコーディングバンドの8人編成とリンクしているのも驚きだ。とにもかくにもYellow Magus(東方の三賢者)ことceroに先導されながら、必死に付いていく所存です。

*1:実際の参照点はジャズピアニストロバート・グラスパーだそうだ

*2:この曲難し過ぎてちょっと下手くそに聞こえますが、とても歌の上手い人です。