青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

岡野雄一『ペコロスの母に会いに行く』

ペコロスの母に会いに行く

ペコロスの母に会いに行く

認知症によるボケあるあるをほのぼの可笑しく描く、という作風も確かに魅力的ではあるのだが、それは岡野雄一という作家の資質のほんの一部分にしか過ぎずない。この『ペコロスの母に会いに行く』という一見ノンフィクションエッセイ作品においても、彼はフィクションの力を有効に活用し、人生の真理に近づこうとしている。そこはかとないSF要素と人間ドラマのもたらす味わいは北村薫の「時と人三部作」(『スキップ』『ターン』『リセット』)に近いかもしれない。母が認知症により記憶の走馬灯に耽っている。その様を、過去側にとっての「未来からの視線」として描いてしまう。過去を顧みるその行為は、かつての自分にとっての未来への道しるべになっているのかもしれない、という提示。「トンビ」や「陽だまり」や「港のクレーン」を軸に、過去と現在と未来とが、母のまなざしで交わる。

そのリリカルなタッチとコマ運びの確かな才能。見事な「視線」の作家なのだ。映画化されるべくしてされた作品と言えるだろう。オススメ。