青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

高畑勲『ホーホケキョとなりの山田くん』


観直す度に評価が上がっていくこの作品。今回も思わず2回観た。ジブリ最大の作画枚数(『かぐや姫の物語』がこれをはるかに超えるとか)で描かれる、淡麗な水彩調のカラーと、抜けのある白いバック。芋虫、蝶、猪、鴬といった花札に関連した生物達が突如として現れ、画面を横断し、のの子にバトンを繋ぎ回想される両親の結婚式までの一連の鮮やかさ。合間に「一昨日も昨日もカレーだったので、今日こそカレーを作ろう」という母まつ子、「何故勉強をしなくてはいけないのか」を巡る父たかしと兄のぼる、など気の抜けたエピソードが挟まれるにも関わらず、全く緩む事がない。そして、結婚式のシークエンスはマーラーやメンデルゾーンの音楽とミヤコ蝶々の名調子をバックに家族の約15年間を駆け抜ける描写が圧巻。ボブスレー(ウェディングケーキを下るでなく、上昇していく)→ヨット→屋形船→トラクター→舟→船→雲→自転車と高畑勲十八番の変形変容の手法を存分に見せつける。ここにはアニメーションの快感が詰まっている!


合間、合間に挟まれる"上昇"の運動にハッとさせられる。コタツに入った家族が植木等の歌を「そのうちなんとかなるだろう」と合唱しながら空に舞う、春雨に打たれ牛バラ肉300gをぶら下げ帰る父を家族が傘を持って迎えに来る名シーンでのカメラのクレーン上昇、エンディングでのクレーン上昇、そしてクライマックス「ケ・セラ・セラ」を合唱しながらパラソル(これは当然あの雨の中家族が迎えに来てくれた「傘」だ)で上昇していく山田家。それに同調するように打ち上がる美しき花火。どのシーンも、この起伏のない緩い作品に、確かな興奮と感動を与えてくれる。


矢野顕子の演奏とバッハ、ショパンモーツァルトらのクラシック曲の新録で構成されたサウンドトラックも素晴らしい。

ホーホケキョとなりの山田くん

ホーホケキョとなりの山田くん

矢野顕子の「電話線」をバッグに喜びを爆発させるのぼるのシークエンスの素晴らしさ。柳家小三治の俳句読み上げもいい。高畑勲の趣味や教養が見事に作品に溶け込んでいてたまらない気持ちになる。山田家の声優陣もいいのだな。益岡徹は「ケ・セラ・セラ」の独唱も含め、本当に最高。これは『かぐや姫の物語』への期待を改めて膨らませている次第であります。