青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

長井秀和の学会漫談

f:id:hiko1985:20170213232328j:plain
あなたは長井秀和を覚えているだろうか?2000年代前半に「間違いないっ!」で一世を風靡したピン芸人である。いくつかのスキャンダルやら何やらで、テレビの一線からは姿を消してしまったが、まだまだ現役の漫談師。先日、彼が所属する爆笑問題率いるタイタン事務所のライブに赴き、長井秀和の最新の漫談を体験してきたのである。ステージに出て来た長井秀和を観て、少し呆気にとられてしまった。往年のオーラは完全に消えている。テンションやテンポは全盛期の見る陰もない。衣装もあのピリっとしたスーツ姿ではなく、完全におじさんの私服。だが、その芸の刃は錆びてはいなかった。世間への切り込み方、向ける視線のその複雑な立ち位置にすっかり魅了されてしまう。

やっとかないと後で「あいつやらなかったぞ」となるのでね

といきなり「間違いないっ!」を脈絡なくテンション低く披露。「まだ生きていたのかと思うお客さんもいるかもしれないんですけど」と自虐から始まり、「金、女、ときて」と自身のフィリピンでの少女淫行事件やカナダ人タレントとの不倫事件を匂わせ、

後は暴力があれば、あの引退した人と同じなんですけどね
あ、紳助さんの事ですよ
気に入らなければ、男も女も関係なく同じ力で殴る
かっこいいですね

とジャブのように島田紳助をいじりが始まり、続いてみのもんたをいじくり倒おす。「こんな事言ってるとテレビには出られないんです。こんなタレントを抱えていると事務所も大変ですよ」と言ってからが、ギアチェンジである。

みなさん知っての通り、僕は宗教系の人間なんですが
学会ですね

と始まり、会場がザワザワし始める。わたしと同じく、初めて聞くお客さんも多いのだろう。創価学会漫談の始まりだ。長井秀和は、父親公明党議員、自身も小学校から大学まで創価学会系列の筋金入りの学会員なのである。まずは、後輩に相談をされた時の話。会話中、少しタメを作るだけで「あれ、長井さんそっち系の話始めるのか」と相手の警戒レベルが2に上がり、相談の最後に「活躍を祈ってるよ」なんていうともうダメです、なんて具合。いやはや、よく練られた秀逸な自虐ネタ。ここからが更に凄い。

学会員は囲い込みが凄いですよ
たまにニュースで聞く脱走した猪なんかは学会員に掴まえさせればいい

生活保護受けてる酒臭いオヤジばっかりだ

徳が上がって目がキラキラしているんじゃなくて、シンナーで目が飛んじゃってるだけ

パチンコ屋経営しているやつが多い

と過激さをどんどん上げていき、最後は「少し先の事になるのですが」と置き、「次の選挙は公明党に一票お願い致します」と告知ライクに締める見事な構成力。会場は失笑と苦笑の嵐でしたが、わたしはすっかり感激してしまった。信仰の愛憎の捻じれ、そんな自身を冷静に見つめる俯瞰の視線。「外から見て自分達がどう見えているのか」というのを、ユーモアで捻じ曲げて披露する。なんとも複雑で面白い。長井秀和は誰も歩んでいない道を切り開いている。