青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『さよならぼくたちのようちえん』


少女と少年が「死体探し」の為に線路をつたい旅に出る。登場人物を幼稚園生に置き換えた、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』の換骨奪胎だ。園児を主役に添えながらも、『スタンド・バイ・ミー』同様に”死”の匂いが濃厚だ。バスでのいしだあゆみ扮する老婆、怪しく光るデコトラック、交通事故現場の花束、死体で発見される少女、捨て猫、ホームレス・・・そして、カンナ(芦田愛菜)の父親の不在。不穏なモチーフが散乱している。


カンナ達が大人の目を盗み旅に出る理由は、病によって”死”を宣告された同級生ヒロムに「さよなら」を言うためだ。カンナは、ヒロムが忘れていった青色のクレヨンを届けるという使命も密かに抱いている。この”青”が物語の重要なキーワードとなっていて、物語に繊細な色の演出が施されている。ヒロムは黒い夜(死の暗示)の恐怖に飲み込まれそうになった時、ゴッホの絵画『星月夜』の”青い夜“を想う。その事を知っていたカンナは、

死ぬと真っ暗な夜の世界にいくけど、
“青い夜”ならきっとヒロム君は怖がらなくてすむでしょ

黒い夜を塗りつぶしてしまえるようにと、ヒロムに青いクレヨンを届けようと決心するのである。しかし、子供だけの冒険は思うようには進まない。その道中で、青いクレヨンは、列車に轢かれ砕けてしまう。イチゴを盗み食いしたり、鼻血を出したり、パトーカーのサイレンに追われたり、赤い服を着た少女の誘拐事件に翻弄とされたり、と執拗に”青”に拮抗するようにして、”赤”が歯向かってくる。間に挿入される、とうもろこしや凧の色に目を向けてみるとそれは中間の”黄色”を宿している。ラスト、何とか病室に1人辿り着いたカンナは、砕けてしまった青いクレヨンのかわりに、キャンディーを差し出す。キャンディーの包み紙は青色のセロファンだ。そのセロファンを通して、ヒロムが窓の外を眺める。そこに広がっているのは「青い夜」だろう。このドラマが青い夜を眺めるショットで終わっていれば、とてつもなく泣けて終わるわけだが、さすがにそうともいかず、卒園式当日に、ヒロムから幼稚園に手術の成功を伝えるFAXが届く。後味を柔らかくする為だろうけども、どう考えても物語上、ヒロムは死んでいる。その証拠に、ラストの集合写真を思い出して欲しい。その場に居ないヒロムは、似顔絵を友人に掲げられている。その構図は遺影に他ならない。つまり、あのFAXもまた、坂元作品でお馴染の「届かない(はずの)手紙」なのだ。

さよならぼくたちのようちえん [DVD]

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