青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

宮藤官九朗『あまちゃん』133話


NHK連続テレビ小説あまちゃん』が133話にして、とうとう「2011.3.11」を迎えた。実に不思議な体験だった。現実の世界には存在しないはずの人々の安否を、心から案じている自分に驚く。毎日15分という時間を5ヶ月間共有してきたことにより、我々はこのドラマの登場人物に愛着を持ち過ぎてしまっている。物語を積み重ねていく事の力を思い知る。あの震災における顔の見えなかった被災者の失ってしまった生活というものが今では頭に浮かんで来てしまう。これは、フィクションが現実にかくも有効である事の茶の間レベルでの実証だ。これからの『あまちゃん』は、もはや記号へと風化しつつある「3.11」への想像力を、再び我々に宿してくれるのではないだろうか。5ヶ月かけて物語は「あの日」に進み、私達は同じように5ヶ月かけて「あの日」に戻ったのである。


その為の”トンネル”だ。トンネルは物語の世界においては“境界”であり、時空を超えるための装置である。あのトンネルの中をおそるおそる歩く大吉さん(杉本哲太)のショットはまるでトニー・スコット作品におけるデンゼル・ワシントンのよう。すなわち、繋ぐ人だ。そして、後ろから明り照らされるという事。その心強さ、美しさに。さすが、傑作『その街のこども』(阪神大震災の被害者を描いた作品)を撮った井上剛による演出だ。切り替しのショットを丁寧に挟みながら、撮られるトンネル。この”切り替し”こそが、物語が進んでいく事、そして私達が「あの日」に時間を巻き戻していく事、その2つのベクトルの運動を請け負っているように思う。また、トンネルの手前はユイ(橋本愛)やアキ(能年玲奈)が「アイドルになりたい」と叫んだ場所でもあったはずで、それを抜けてみたら、あの風景だったわけだ。


いやー、辛い。正直観るのが辛い。しかし、宮藤官九朗が覚悟を持って描いてあろう領域をこちらも覚悟を決めて見届けたいと思う。