青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

石黒正数『木曜日のフルット』と藤子・F・不二雄

石黒正数が『週刊少年チャンピオン』で週に2ページというペースで連載している『木曜日のフルット』という作品がある。最初読んだ時は『それでも町は廻っている石黒正数にしてはそこまで面白くないなぁ、くらいの感想だったのですが連載を重ねるごとに面白くなっている。3巻なんてもう最高でした。

木曜日のフルット 1 (少年チャンピオン・コミックス)

木曜日のフルット 1 (少年チャンピオン・コミックス)

木曜日のフルット 2 (少年チャンピオン・コミックス)

木曜日のフルット 2 (少年チャンピオン・コミックス)

ショートギャグ物で、石黒正数ならではの芸の細かい小ネタで埋め尽くされており、情報量は多い。例えば、主人公の猫フラットが売られていたペットショップの名前は「BOYS」だ。しかし、表層は猫とニートスローライフ物なので、ダラっと読めるも憎い。「階段じゃんけん(グリコ・チョコレート・パイナップル)の必勝法」だとか「道に軍手が頻繁に落ちている理由」だとか、突如として真理のようなものに辿り着いてしまう瞬間もたまらない。登場人物が全て愛おしい。「鯨井先輩のオリジナルレシピ」を披露するだけのクッキング回も楽しいし、うすた京介を彷彿とさせる実験的ギャグ回もある。この漫画の素晴らしさはとにかく枚挙にいとわないのだけども、やはり何と言っても藤子・F・不二雄のDNAがコマレベルで息吹いている所にグッと来てしまう。


猫の集まる空き地に土管があったり、鯨井先輩の歌声が「ボエー」(ジャイアンオマージュ)くらいのレベルのものは並の作家でもやれる事だからいいとして、例えばここらへん。




どうでしょう?伝わりますだろうか、これらのコマに描かれた風景や仕種に散りばめられたFリスペクトが。何だろうな、この家の塀とか下水溝とかさ、絶対にのび太が歩いてきた道なんですよ。躁鬱の落差の激しい仕種は初期の『ドラえもん』原作を彷彿とさせます。そもそもこのフルットという猫が美しい丸みを持っているという時点で「ドラえも〜〜〜ん」と飛び付きたくなるわけです。しかも、半飼い主である鯨井先輩はグータラ無職だ。「でも、フルットは秘密道具を出せないじゃないか」というツッコミは

こうかわす。この魔導師のような人(?)は結構な頻度で不思議な道具を持って登場し、楽しませてくれます。別に鯨井先輩を助けたりするわけではないのですが。後ね、ここも好き。


決して同じ構図とか台詞で書いているわけではないのですが、僕はここに『ドラえもん』の「さようならドラえもん」(てんとう虫コミックス6巻収録)
ドラえもん (6) (てんとう虫コミックス)

ドラえもん (6) (てんとう虫コミックス)

における、のび太ジャイアンの決闘のオマージュを見るのですね。前述の背景とか仕種もなのですが、直接的ではなく何というか記憶レベルでのオマージュがよいのだ。これ見よがしでない所に逆に石黒正数のF先生への強い愛を感じます。そうだよね、小さい頃からF作品を浴びてきた僕らにとっては、呼吸レベルでFだよね!と手を取り合いたくなる。かねてより、藤子・F・不二雄の後継者は、その日常とSFの境界なき融合のセンスをして、小田扉石黒正数に他ならない、と考えていたわけだが、『木曜日のフルット』でもって石黒正数がその椅子を更に近づけたように思う。