青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

小淵沢レストラン「こぶダイニング」

小淵沢にとてつもなく美味いハンバーグを焼く野中シェフという方がいる。2年前に小淵沢へ旅行に行った際、昼食を食べようと何気なく入ったのが、彼が切り盛りする「N30(エヌ・サーティー)」というお店だった。小淵沢駅には数えるほどしか食事処がなく、適当にジャンケンで決めて入った。確か僕が勝っていたら駅前のそば屋だったはずだ。その「N30」という店には、はっきり言って全く期待していなかった。

控えめに言っても薄汚れた外観から推測するに、古びた街の喫茶店という感じ。下手したら冷凍ピラフなんかが温められて出てくるだけではなかろうか、と訝しく思っていたわけなのです。店内に入ってみると初老の男性が、「ん?時間かかるけどいい?」と無愛想に対応してくるものだから、もはや半ば諦めて着席する。しかし、メニューを眺めていると「エスカルゴ」「手作り高原野菜」「手作り生ハム」などの単語が並んでおり、「ん?これはもしかして」という淡い期待が生まれる。注文したのはハンバーグ。そして、いざ料理が運ばれて口にしてみて衝撃が走った。こんなに美味しいハンバーグは食べた事がない!大袈裟じゃなくそう思った。「シンプルハンバーグステーキ」は、ソースはかかっていないにも関わらず複雑な味のハーモニーが肉の旨味を引き立てている。そして、余計なものが入っておらず、味が澄み切っているのがわかる。「チーズハンバーグステーキ」のデミグラスソースも、とても駅前の小さなお店で味わえるような代物じゃない極上の出来栄え。表面の焦げ目も、絶妙なアクセントとなっていて、確かなテクニックに裏打ちされている事が伺えた。皿に添えられている高原野菜のフリットもどれも絶品。野中さんが自宅の畑で育てているそうだ。「美味しいです!」と伝えれば無愛想だった店主もすぐさまかわいいおじいちゃんに早変わりし、お喋りが止まらない。

「外観でみんな躊躇するみたいだけど、1度たまたま訪れてくれた人は結構みんなリピートでまた来てくれるよ」

との事で、ファンも大変多いらしく、常連さんによるメニュー解説や感想を綴るノートなども店内には置かれていた。一年に一度は必ず来よう、と心に決め、翌年も夏頃に店内を訪れる。すると常連さんと店主の会話で、月内に店を閉めるという情報を耳にしてしまう。なんという事だ、と嘆きながらも、閉店前に間に合った幸運に感謝する。ちなみに2回目の注文もハンバーグ。


世界で1番美味しいハンバーグとの蜜月の関係はたった2回で幕を閉じてしまったのだが、どうしても諦め切れず、何気なくgoggleで「N30 小淵沢」と検索してみる。すると、なんとあの野中シェフが小淵沢にある紅茶専門店のランチの時間態のみ厨房に入り、メニューは数品ながらも、腕を奮っている、という記述があるではありませんか。こうしちゃおれん!とさっそくレンタカーを借りて、小淵沢へ向かったわけです。しかし、勢いで飛び出し過ぎました。間もなく小淵沢、という段階で、やっとじっくりネットで調べてみると、「野中シェフはお辞めになりました」との記事が飛び出す。「そうなってくると一体何の為に小淵沢へ!?」という」話だ。というかもう泣きそうになりましたね。藁にもすがる思いでネットをサーフィンを続けていると、「野中シェフがご自宅の横に新しいお店を夏頃にOPEN予定」の文字が飛び出る。あまりの展開の早さについていけなくなるわけですが、「夏頃っていつだ!?」と調べてみるとなんと2日前にOPENしておりました。奇跡。神々が私にハンバーグを食べろと期待している。

そうだ、世界で1番美味しいハンバーグとの出会いも、そもそもジャンケンという運命のイタズラでございました。

森の中に自宅、そしてその隣に青いコテージが一棟。それが野中シェフの新店「こぶダイニング」です。注文するは「シンプルハンバーグステーキ」

あの肉汁に再び出会えた喜びを何の花に例えられましょうか。一口一口噛みしめて頂く。シェフに「車、練馬ナンバーじゃない。東京なら他にもハンバーグたくさん食べられるでしょ?」と聞かれたので、「ここのが1番美味しいです」と伝えると「そう?」とうれしそうなシェフ。キュートじゃないか。デザートに頂いた、「クレープのオレンジ包み」も名作。

あのおじいちゃんから何故このような繊細な一品が!?というギャップもたまりません。遠方であろうと、はるばる足を運ぶ価値ありの一店。激烈レコメンドでございます。