青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『東京ラブストーリー』


現代テレビドラマ界のトップランカーである坂元裕二が、若干24歳にして書き上げたのが、かの有名な『東京ラブストーリー』(1991)である。当然、古くなっている点も多々あるが、それを差し引いても傑作である。何と言っても会話のリズムがいい。

カンチ「じゃあ、また明日」
リカ「もう今日だよ」
カンチ「あ、そっか」
リカ「そ」
カンチ「じゃあ、また後で」
リカ「寝坊しないように」
カンチ「目覚ましかけて」
リカ「パジャマ着て」
カンチ「歯磨いて」
リカ「毛布にくるまって」
カンチ「いい夢見て」
リカ「カンチの夢でも見ようかな」
カンチ「じゃあ、俺も」
リカ「じゃ」
カンチ「じゃ」
リカ「ばいばい」
カンチ「ばいばい」
リカ「おやすみ」
カンチ「おやすみ」
カンチ「寝坊するなよ」
リカ「それさっき言った」
カンチ「ああ、そっか。 いい夢見て」
リカ「それも」
カンチ「そっか」
リカ「なんか、これじゃ、いつまでたっても帰れないね」
カンチ「そんな夜もあるよ」
リカ「うん。じゃあさ、こうしよう。せいので一緒に後ろ向くの」
カンチ「おっけー」
2人「せーの」

THEトレンディドラマというような気恥ずかしさはあるが、言葉がまるで音楽のように躍動しており、耳に心地良い。ぜひ、映像で確認して頂きたい。とにかく、今作は鈴木保奈美演じる”赤名リカ”というキャラクターの為にある、と言い切ってしまいたい。鈴木保奈美のアニメやゲームのキャラクターのような”軽さ”を身体に落とし込んだ演技メソッドは今なお新鮮。放送当時はさぞかしニューウェーブであったことだろう。リカは全身全霊で、その1秒1秒に「アイラブユー」を刻みこむ。彼女が撒き散らす魅力に、カンチと共にすっかり翻弄されてしまう。彼女の台詞回しも魅力だ。例えば、突然のキスの理由を求められたなら、「電話帳250冊喋っても説明できないよ」と返す。ちなみにあの有名な「カーンチッ、セックスしよ」は、なんと早くも3話で出てくるのです。しかも、正確には「ねぇ、セックスしよ」でありまして、「カーンチッ」の部分は違うシーンで発される。


東京では誰もがラブストーリーの主人公になれる

このドラマのキャッチコピーだ。小田和正の「ラブストーリーは突然に」が流れるOPで主要キャストらは、街の群衆に紛れている。街の中には無数の人々がいて、それぞれに名前のない物語たちが潜んでいる。その中から無作為に拾い上げられたカンチとリカ。2人は幾度となく名前を呼び掛け合い、自らの固有性を主張していく。2人の若者の稚拙な恋愛は、当時の風俗を目一杯に吸い込みながら、燦然と煌めき、そして静かに終わっていく。そう、この作品は、トレンディドラマの定石を覆すようなアンハッピーエンドを迎える。しかし、リカは言う。

人が人を好きになった瞬間って、ずーっとずーっと残っていくものだよ。それだけが生きてく勇気になる。暗い夜道を照らす懐中電灯になるんだよ

上記の考え方が貫かれている限り、全てのラブストーリーは肯定される。されるべきなのだ。たとえ、それが報われなかった、伝えられなかった”アイラブユー”だったとしても。