青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

三浦直之(ロロ)『ダンスナンバー 時をかける少女』


「MOOSIC LAB2013」という「映画×音楽」という企画内からの作品。「時をかける少女」という題材もさる事ながら、教室での着席からのダンスシーンという、AKB48のPVで御大が魅せた手法とのシンクロニシティーまで発生しており、三浦直之が大林宣彦チルドレンである事を再認識した次第。音楽に乗っかる画面一杯の横移動、そしてY字路と階段。三浦直之の黒沢清ひいては映画史への確かな憧憬を感じる事ができたのもうれしい。元9nineという経歴を持つ主演の我妻三輪子のロロメソッドを劇場の外に解き放つ解釈も素晴らしく、時をかけるにふさわしき少女だった。板橋駿谷のスクリーンに負けない映えっぷりも見逃せない。

しかし、この映画『ダンスナンバー 時をかける少女』に、ロロの演劇作品のようなスペシャルを抱いたか、と言われれば、困ってしまう。海に行かずして言葉と身体で海を立ち上げてしまう、そんな演劇の魔法こそを最大の魅力としている三浦直之の作品において、本当にカメラを海に向けてしまうのは、蛇足であるように感じてしまった。演劇畑の人間が映画を撮る、という事でこの点に大きな葛藤があったのは勿論の事だとは思うのだけれども、演劇方面にかなり寄りかかったまま映画に侵食していく演出が撮られていたので、どうしてもその印象は拭えなかった。一方で「MOOSIC LAB2013」のテーマ「映画×音楽」という点から見れば、倉内太&ネイティブギターと映画の相性は抜群で、彼の楽曲が演奏される度に、画面が軽やかに躍動し、この作品をとびきり愛しいものに変えていた。2曲ほどとびきりにいい曲があって、本当にドキドキしてしまった。誰かへの届かなかった思いがメロディーとなり、全く別の誰かに届いてしまう。この作品に流れるムードはポップミュージックの魔法そのものだ。ロロの演劇作品でいつも印象的にJ-POPが流れる理由もきっとここにある。何にせよ、この作品をきっかけに別の畑の人間がロロの舞台に足を運んだりするのであれば、それはとても素敵な事ではないか。