青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

口ロロ(クチロロ)『Japanese Couple』

JAPANESE COUPLE

JAPANESE COUPLE

当初はあの名盤『ファンファーレ』の2013年盤を制作する予定だったなんて噂や「三浦康嗣が全編ボーカルをとったラブソング集」という触れ込みから期待するアルバムとはかなり趣の異なる感触で、最初はかなり戸惑ったのが正直な所。しかし、これは面白いアルバムだ。ラブソング集から想起される恋愛のもたらす多幸感、もしくは非壮感といった感情のカタルシスは描かれていない。だんだん消えていく恋の魔法、引き延ばされていく惰性感、しかし、また同時にそこに感じる心地よさ、そんな感覚をループやアンビエントといったミニマルな音像で見事に可聴化している。「忘れる いつか忘れる」というループに「思わず手をつないだ」と抵抗を見せる「デート」というナンバーが個人的には白眉。「never again」「男と女のすれ違い」も捨てがたい。ミニマルな音像と三浦康嗣の歌のバランスがとてもいいのだ。個人的に彼らのディスコグラフィーで1番愛聴している1stアルバム『クチロロ
口ロロ

口ロロ

を彷彿とさせるサウンドの自由さがある。ポップソングのフレームに容易にはまらない歌がある。傑作『everyday is a symphony』に収録されていた「Re:Re:Re:」の続編的ナンバー「ex-girlfriend」が収録されているのもうれしい。携帯メールの文を音楽にした「Re:Re:Re:」のサビ

君にもっと 近づいて もっとわかりあって
繋がっていたい 日に日に

に続けて、新たに加わった

だから今に繋がる 昔の事を確かめたくて
今日も Re:Re:Re:

というフレーズが美しい。いとうせいこうのラップも何だかんでうれしい。そして、PV(ロロなどでの女優業、MAHOΩの振り付け担当でお馴染の島田桃子先生が出演)も公開されているラストナンバー「ふたりは恋人」が凄い。

ふ(Fu)たりは恋人で 何年たっても変わらない

という歌い出しから、とにかく「ふ(Fu)」の音を重ねていく。それは笑い声であったり、お茶を冷ます音であったり、時間が恋の魔法を吹き消す音であったり。そして、

東京の街に星が降(Fu)って 2人の街にも星が降(Fu)って
雨が降(Fu)って 雪が降(Fu)って
太陽が降(Fu)って 風が吹(Fu)いて

その「ふっふっふっふっ」という音によって、擦り減っていった恋人達はやがて「夫婦(FuFu)」になる、という素敵な構造を持っているのです。凄いのは、バースデーケーキのロウソクを吹き消す音に託された「ふっ(Fu)」に託された

死に近づいてく2人を祝福している

というフレーズが辿り着く、「消失」「衰退」「減少」というネガティブなワードを反転させてしまう境地だ。実はこれは生楽器の音色の配置が秀逸な冒頭の歌モノナンバー「ゆっくりと」でも示されていて、「恋心」を白い雪に託し、屋根にゆっくり積もって行く様、そしてそれがゆっくりと溶けて、はじめから何もなかったかのように消えていく様を描写しているのだけども、白い雪が消えた後、見える屋根の色は「赤」なのだ。映画的な実に素晴らしい作詞であります。

今アルバム、売り文句ほどの派手さや大衆はないかもしれないが、ポップ集団クチロロの実験を続けて支持!であります。