青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

クエンティン・タランティーノ『ジャンゴ 繋がれざる者』


イングロリアス・バスターズ』ではナチス、今作は黒人奴隷制度と、最近のタランティーノ作品は、血塗られた史実を、血で塗り変える、って事をやっているわけですが、今回は肌の色が白か黒か、という話なので殊更、血は赤であった。白を赤く染める映画だ。キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の行動原理がはっきりと明かされない所もよかった。


それらの血塗られた歴史に彼自身が強い問題意識を持っているか、というとそんな事はないと思うのだけど、どうなんだろう。Wikipediaを読んでみたらタランティーノ

僕はずっと、このアメリカのヒドい過去である奴隷問題を扱った映画を製作したいと思っていたが、歴史に忠実な映画にはしたくなくて、ジャンル映画として描きたいと思っていた。特にアメリカのウエスタン作品は、極端に奴隷問題を避けて描いてきた作品が多かった。海外の国は強制的に過去に犯した残虐行為に対して、国ごとに対処しなければならなかったが、どこかアメリカはこの奴隷問題に関しては、みんなの過ちとして捉え、誰もしっかりと、この問題を見つめていないと思う

と制作意図が記載されていた。しかし、彼が本当にやりたかったのは、当時の黒人の憤り、そしてそこから派生したヒップホップミュージックを、より肉感的に画面上に繋いでみる事だったのでは。タランティーノのサンプリング的な作風というのはもろにヒップホップなわけで、絶対そこが1番にやりたかった事なのに、前述のような所信表明をするわ、「奴隷制度について考えさせられた」とか「奴隷制度について詳しく調べてみようと思う」というような感想を観客の多数に抱かせてしまうのだから、やっぱりタランティーノは凄い。


今作では無駄話と足へのフェチズムにかなり禁欲的だった印象だ。そして、165分。「お、終わりか」と思うシークエンスが終盤3回は訪れるのだけど、終わらない。永遠に続いていくような感覚を得始めると終わる。長い。確かに長いのだけど、退屈している暇はあまりない。