青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ウェス・アンダーソン『ムーンライズ・キングダム』


キュートネス!ハピネス!大好き!いやーウェス・アンダーソンの最高傑作ではないだろうか。彼の素晴らしきフィルモグラフィーの完璧な集大成。ノーマン・ロックウェルの絵画やフランソワ・トリュフォーの『トリュフォーの思春期』『大人は判ってくれない』などモチーフは点在しているが、今作に強烈に感じるのはチャールズ・M・シュルツである。暴論をぶちまけてしまえば、今作はウェス・アンダーソンなりの『ピーナッツ』の続編だ・


もちろんこれまでのウェスの作品全てに『ピーナッツ』への愛をふんだんに感じる事ができるのだけど、今作にはおいてはとうとうスヌーピーという名の犬が登場する。そうなのだ、ウェス映画に出てくる登場人物はみんなチャーリーやルーシーやライナスの続きだ。理屈っぽい子ども達が。どうにか普通の人生を歩みたいと悩みもがく、愛おしき物語の続き。チャーリーは大人になってもずっと悩みながら、ダンスを踊り続けるのだ。


今作においてもその映像センスは細部に渡って冴えまくっている。構図からセット、衣装、小物までに存分にウェス・アンダーソン印というやつを満喫する事ができる。大切なのはレコードプレイヤーと運動靴と双眼鏡、と何冊かの本。

そして、今作においても多用される音楽とフルサイズの平行横移動。あの楽しさは何なんだろう。それは、同じく頻出する切り返しカット(サムとスージーの出会いも切り返しによって発生する)に秘密があるのではないかと思う。そして、その切り返しカットによって生まれる多くの対岸のイメージ。例えば、サムのキャンプ地とスージーの家、秘密のビーチでのダイブ、煙突と部屋(今作にはとても魅力的な上下の運動もある。あのトランポリン!!)、などなど。あの横移動は、人と人との間に生まれた距離の横断だ。つまり、距離を縮めるための運動だ。スージーが肌身話さず持ち眺める双眼鏡、あれも遠くのものを近くにしてしまう。どちらも魔法みたいなものなのだ。それがあの横移動の幸福感の秘密ではないか。2人が再会した草原のバックに風車がクルクルと回っていることに泣こう。そして、ウェスはその距離を縮める移動を”アドベンチャー”と呼ぶ。そう、私達はアドベンチャーし続けるべきなのだ。最高のキッスの為に。

オープニング、そしてエンディングテーマとして流れるBenjamin Brittenの『青少年のための管弦楽入門』を聞いてみる。あれが人生だ。フルート、ピッコロ、ヴィオラ、ギター、サックス、ホルン、トランペット、打楽器、ファゴットクラリネットetc...。様々な楽器の変奏と独創。君にも主役になる瞬間は必ず訪れるのだ。ウェス・アンダーソンに大きな愛と感謝を!