青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂本慎太郎『まともがわからない』

まともがわからない(初回限定盤)

まともがわからない(初回限定盤)

坂本慎太郎のニューシングル『まともがわからない』が素晴らしい。初回盤にはテレビドラマ『まほろ駅前番外地』のサントラが収録されたディスク付きというのもうれしい。しかし、とにかくシングルの3曲が素晴らしいのだ。2011年に発表された1stソロアルバム『幻とのつきあい方』は素晴らしいサウンドに酔いしれながらも「幽霊のような気分で」というトーンにいまいちしっくりきていなかった。もしかたら、今となっては自分でも信じられない話なのだが、震災後の「がんばろう日本」的な空気に少し熱をあてられていたのかもしれない。しかし、まぁ、その後の日本社会の流れを眺めていたら「まともがわからない」というムードは、あまりにしっくり今の気分なわけで。あの投票場での「ここにいる全員がおかしいし、ここにいない全員が狂っている!」みたいなドープな被害妄想気分の感覚は忘れられませんよ。

あたまいたいできごと まともが わからない
うそみたいな人たち 悪いジョークなんだろ?


「まともがわからない」

そんな中、聞き返してみる『幻とのつきあい方』はもう全然違って響いて来て、これぞ現代の絶望との折り合いの付け方だ!と今更興奮しているわけでございます。部屋の中で肉体を伴わないダンスをするあの感じ、あの温度の低く保ちながらも永遠に続いていくかのようなミニマルファンクミュージック。そして、メロディーがこれでもかとスウィートなのもいい。逃避、抵抗は美しくなくてはならない。そこにのっかる

この町で 生きている 行く人を 見ながら
そして肝心なとこでしらけてみながら


「君はそう決めた」

というラインはあまりにキラーだ。個人的に「思い出が消えてゆく」とかは涙なしに聞けないのですが。

あの世でみんな 何してるかな? 
また昔のこと 忘れてゆく
ひとりぼっちだった こともあるけど 
そのつど好きな子 いた気がする
あざやかな夕闇につつまれて 
ひとつずつ思い出が消えてゆく 記憶の


「思い出が消えてゆく」

なんだかもう完全に彼岸に立っているような。シングルの2曲目「死者より」

は打楽器、管楽器の響きが確かなグルーヴを伴っているのに、肉体性を感じない。棒立ちした人間の後ろに立つ幽霊が黙々とリズムを刻んでいるかのようなズレた面白みがある。しかし、「いきものめ いきものどもめ」というのはもう完全に神様ではないか。Brian Wilson山下達郎宇多田ヒカルetc・・・そういう境地に到達した人々の音楽はことごとく美しい。最新シングル表題曲の「まともがわからない」にイントロのストレートな美しさには、自分が今こんなにも真っ当なメロウな音を求めていたのか、と新鮮な気持ちで驚けた。2012年は完全にアンビエントな音を欲していたわけだけども、今年はちょっと明確な意思のある音色を聞きたいのかもしれない。

この小さい町にも奇跡はありえる
かなえたい夢なんて はたしてあったっけ?俺に
まともがわからない
ああう〜
まともがわからない ぼくには今

あえて歌詞カードにも記載されている、この諦観と執着の入り混じった「ああう〜」という悲痛な叫びを美しく響かせるのが、今の坂本慎太郎の音楽ではなかろうか。