青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

大橋裕之『シティライツ』3巻


中野タコシェで開催された大橋裕之先生のサイン会に参加して参りました。希望したイラストを描いてくれるという事で、最終話「光」の主人公が描いている漫画「てもちぶさ太君」の主人公にしてもらいました。「腹王(ふっきんぐ)」と「岡田君」とで迷いましたが、笑顔が素敵なのでてもちぶさ太君にしてよかったです。しかも「手もちぶさたじゃなくなった」と言っています。よかったです。


シティライツ(3) <完> (モーニング KC)

シティライツ(3) <完> (モーニング KC)

『シティライツ』3巻が本当に素晴らしい内容で、これはもう歴史に名を刻んだのではないでしょうか。どんなにダメそうな奴の人生も、実のその1つ1つが「街の灯り」なのである、という事を教えてくれる一歩引いた優しいカメラが、今巻ではググっと対象に寄り、その灯りが”光”る瞬間を捉えている。どのエピソードも登場人物が実に美しい光に包まれていて、たまらない気持ちになってしまう。その光を見事に可視化しているのは大橋作品でお馴染の奥田亜紀子のトーンワークで、今巻での貢献は筆舌に尽くしがたい。。


日常に潜む何気ない瞬間の輝きを掬い上げる、という連載初期の作風から、徐々にセンス・オブ・ワンダーへの挑戦が見られ、3巻でのその充実は目を見張るものがある。「帰郷」「良子の変」「ハンカチーフ」の味わいは、ショートSFの名手である星新一のようだ。ベタつかない程度のさりげない叙情が涙を誘う。「漫画神」に全てのクリエイターの心は震え、熱情が跳ね返るに違いない。子どもが漫画神を見上げるカットに託された循環のモチーフ。個人的には、今までの作中漫画家大集合(あの「野菜の拳」と「アッパくん」の作者が!)にも痺れました。そして、何と言っても最終話の「光」だ。3巻はSFチックな作品が続く中、この最終話だけがリアルテイストな話。この感覚ってceroの『MY LOST CITY』のラストトラックが「わたしのすがた」だった、あの感じに近い。台詞に頼らず、光のその運動だけで、若者の全てを描き切ったような感触がここにはある。『シティライツ』がこれにて堂々の完結。メジャー誌連載お疲れ様でした。


余談ですが、大橋作品には人命や背景の看板などにミュージシャンがよく出てくる。サイン会の特典についていた解説本によると、2巻でおっさんみたいなヤンキーの名前が星野源だったので、星野源が「俺、嫌われてるのかな・・・」とこぼしていたのを人づてに聞いたそう。「全くそんなことないです!」と伝えてもらったそうです。3巻では店の看板などにたくさんのインディーミュージシャン名が確認できる。「ホテルシャムキャッスル」「三輪二郎法律事務所」「SMクラブオシリペンペンズ」「高城書店」「澤部焼き」「小料理王舟」「スナック(平賀)さちえ」「MCしらふ」、そして人名に「見汐麻衣」「北里」、更にはジョンのサン『No,sir』のアルバムジャケットオマージュも見受けられた。